配役
220
予想時間40 分
文字数12400 文字
登場人物
名前タップでセリフ抽出明里高崎 明里(たかさき あかり)32歳 結婚を控えたカウンセラー 同院の木本と婚約している 「幸せを高望む」
譲木本 譲(きもと ゆずる)34歳 木本医院の院長の息子 明里と婚約している 「幸せを消費する」
周子花江 周子(はなえ ちかこ)32歳 売れない地下アイドル 青空を盲信している 「幸せを夢見た」
青空大井 青空(おおい そら)20代前半 宗教法人「赤猫の夜明け」代表の息子 周子に木本医院を紹介した 「幸せを嘯《うそぶ》く」
本編
青空:M「ぼくたちは、間違いなく幸せな民族だ。
青空:戦争や紛争のニュースを見ては、そう実感する人間も多いだろう。
青空:自分より不幸な人間は、世界中にたくさんいる。
青空:「そう思いたい」のではなく、それが事実なのだ。
青空:けれど人間は強欲だから。
青空:より多くの幸せを求めてしまうし、
青空:自分が不幸である要因を、誰かに消して欲しいと願っている」
木本医院・カウンセラー室
明里:「次の方、どうぞ」
周子:「失礼します…」
明里:「花江、周子さん…?」
周子:「はい」
明里:「…」
周子:「あの…?」
明里:「、すみません。花江さんは当院にかかるのは初めてですよね」
周子:「はい」
明里:「以前もどこかのカウンセリングに?」
周子:「いえあの、こういったことは、初めてで」
明里:「そうですか。
明里:(微笑んで)初めから全てを話す必要はないですし、すぐに私を信用しろとも言いません。
明里:花江さんがリラックスして、そうですね、例えば友達に相談する、くらいの感じでいいんです。
明里:ゆっくりお話していきましょう」
周子:「…はぁ」
木本医院・外
青空、周子を待っている。
周子、青空のもとへ合流する。
青空:「カウンセリング、どうだった?」
周子:「全然。もう行きたくない」
青空:「あらら。何か言われた?」
周子:「っていうか。普通の家庭に生まれて、何不自由なく育って、幸せに生きてきたような人だったから。そんな人に話すことない」
青空:「…そっか」
青空、歩き出す。
周子、青空の隣を歩く。
周子:「ねぇ、青空さんの紹介だから行ったんだよ?
周子:私は青空さんが居ればそれでいいの。
周子:私のこと理解して側に居てくれる、青空さんだけ居ればそれでいい」
青空:「んー、ぼくもずっと一緒に居られるわけじゃないからさ」
周子、立ち止まる。
周子:「…」
青空、周子が立ち止まっていることに気付いて立ち止まり、振り返る。
青空:「周子?」
周子:「…分かってる。忙しいのも。
周子:青空さんを必要としてる人間がたくさん居るってのも、理解してる。
周子:だから今だけは、側にいて」
青空:「うん。周子の側にいるよ。大丈夫」
周子:「…青空さん」
青空:「なに?」
周子:「…抱きしめて」
青空:「ふ。ほら、おいで?」
周子:「…ん」
周子、青空のところまで行って体を預ける。
青空:「今日は甘えんぼだね」
周子:「…ごめんなさい」
青空:「怒ってるわけじゃないよ?
青空:周子はいつも我慢しちゃうから」
周子:「うん。でもね、青空さんには甘えたいの」
青空:「うん」
周子:「すき。青空さん、大好き。大好きなの」
青空:「知ってる」
青空:「…あー、ごめん周子。
青空:この後、人に会うんだ。だから今日はここまで」
周子:「えーーー」
青空:「ごめん」
周子:「…分かった。 ね、また連絡していい? 今日の夜、とか」
青空、周子を離す。歩き出す準備。
青空:「返せるかわからないよ?」
周子:「それでも。送りたいの。だめ?」
青空:「ダメじゃないよ。じゃあね」
青空、立ち去る。
周子:「うん! またね!」
周子、青空の背中を見送る。
周子:「…はぁ(溜息)」
周子、笑顔から表情が抜け落ちる。
周子:M「本当は、行って欲しくない。もっと一緒に居て欲しい。
周子:でも。わがままを言って困らせたくないから。嫌われたくないから。
周子:いい子になんてなりたくないけど、他の方法なんて、知らないから」
木本医院近くの喫茶店・喫煙スペース
譲、タバコを吸っている。
青空、喫煙スペースに入ってくる。
青空:「こんにちは」
譲:「あ、どうも。こんにちは」
青空、タバコを取り出しながら。
青空:「休憩、ですか?」
譲:「えぇ、やっと取れて。遅めのランチに。
譲:…タバコ、吸われるんですね」
青空:「ええ、最近始めたんです」
譲:「へぇ、意外です」
青空:「?」
譲:「だって大井さんはその、教祖、と言われる存在でしょう?」
青空:「(煙を吐く)そうですね。でもウチの宗教はタバコを禁止とはしていないので。
青空:まぁ、父は嫌な顔をしますけど。
青空:譲さんと二人で話すのは、これが初めてですよね。
青空:あと、青空って呼んでください。譲さんが良ければ。
青空:紛らわしいでしょう? ぼくも父も「大井さん」だと」
譲:「ありがとうございます。じゃあ…
譲:青空さんのお父様には、父がいつもお世話になってます」
青空:「いいえ。父は昔の話が好きでして。
青空:それで、木本さんとの話もよくするんですよ」
譲:「へぇ。仲がいいんですね」
青空:「ぼくと父が、ですか?」
譲:「ええ。うちは父と事務的な会話しかしないので。仲がいいんだなぁと思って」
青空:「…どうなんでしょうね」
譲:「…?」
青空:「そういえば、ご結婚なさるんですってね。
青空:おめでとうございます」
譲:「耳が早いですね。ありがとうございます」
青空:「父が、あなたのことよく話に出すんです。
青空:若くて腕もいい、期待の次期院長だって」
譲:「いやぁ、若くはないですよ。もう35になりますから」
青空:「立派ですよ、譲さんは」
譲:「恐縮です」
青空:「お父様も安心なんじゃないですか?」
譲:「さぁ、どうなんでしょう。
譲:でも早く結婚しろとは言われてましたから。
譲:孫の顔を見れるのが嬉しいみたいで」
青空:「孫」
譲:「あー、お恥ずかしい話ですが、妊娠してるんです。妻が」
青空:「それはそれは。重ねておめでとうございます」
譲:「人の親になる、なんて。想像がつきませんよ」
青空:「そうですよね。
青空:男は自分で変化しないといけないから」
譲:「タバコすら自由に吸えなくなるんですかねぇ。
譲:これ、唯一の息抜きなんですけれどね」
青空:「ふ。…あ、もうこんな時間か。行かないと」
譲:「お忙しいんですね」
青空:「譲さんほどではないですよ。
青空:それじゃ、またお話してください」
譲:「えぇ、ぜひ。また」
明里と譲が住むマンション・玄関
譲、玄関を開けて部屋に入る。
譲:「ただいま」
明里:「おかえり」
譲:「つっかれたー」
譲、靴を脱いで部屋に入る。
明里、玄関に出迎える。
明里:「…ちょっとぉ、タバコ臭いんですけどぉ?」
譲:「えぇ? ごめんって」
明里、譲のカバンを受け取ってリビングへ向かう。
明里:「もー。消臭剤かけといてよ?」
譲、ネクタイを緩めながら明里に続く。
譲:「はいはい」
明里、譲の方に振り向く。
明里:「あ、ねぇ、明日のさぁ」
譲:「あーごめん。時間取れそうにない」
明里:「今週も? ねぇ、自分の結婚式でしょ!」
譲:「仕方ないじゃん、仕事なんだから」
明里:「院長にお願いしてよ」
譲:「勘弁してよ」
明里:「…このまま上手くやっていけるのか不安」
譲:「そんなこと言うなよ。ほら、こっち来て」
明里:「…ん」
譲:「俺は、お前を愛してる。もちろんお腹の子供も。
譲:親父は今大変っていうか、ほら金策でさ」
明里:「あの宗教のやつ? そんなところに頼って大丈夫なの?」
譲:「宗教としてじゃなくて親父の友人として金、出してくれてるんだよ。
譲:代表の人がさ、古い友人なんだと」
明里:「信じられない、宗教なんて」
譲:「大丈夫だから。そうカリカリするなよ」
明里:「誰のせいでカリカリしてると思ってるの?」
譲:「え? うそ、俺のせい?」
明里:「(溜息)、もういい」
譲:「ね、メシは? 腹減っちゃって」
明里:「冷蔵庫にあるもの適当に食べて」
譲:「えー、用意してないの?」
明里:「病院から帰ってきてから気持ち悪くて」
譲:「つわり?」
明里:「なのかなぁ」
譲:「検診でなんか言われてないの?」
明里:「特には…まぁ、問題ないと思うけど」
譲:「なんかあったらすぐ言えよ? あ、母さんも気にしてるみたいだし、一緒に着いてきてもらえば?」
明里:「えぇ? 大袈裟だよ」
譲:「昼間暇してるみたいだしさ。たまに連れ出してやってくれよ。
譲:最近連絡多くてさ、話し相手が欲しいんだろうけど、ほら俺も忙しいし」
明里:「んー…」
譲:「…なに?」
明里:「…別に。…先に休むね」
譲:「おう」
明里:M「譲は元々、結婚に乗り気じゃなかった。
明里:子供ができたから仕方なく、って感じ。
明里:産む前からこんな調子で、やっていけるのだろうか、私たちは。
明里:「次期院長の医者と結婚」なんて、
明里:周りから羨望のまなざしを向けられる、完璧な結婚のはずなのに。
明里:私の心は全然晴れなかった」
街の中(夕)
周子と青空、並んで歩いている。
周子:「…青空さん、タバコの匂いする」
青空:「うん?」
周子:「タバコ、吸ってなかったよね? どっかタバコ臭いところ行った?」
青空:「ううん。最近ね、吸うようになったんだ」
周子:「えー! タバコなんて良くないよ、いいことなんて一個もないんだから!」
青空:「一個も?」
周子:「うん。それに青空さんのイメージじゃない」
青空:「イメージじゃないって…(苦笑い) 周子にはぼくがどう見えてるの?」
周子:「んーーー。優しくて、強くて、 …私を守ってくれる、王子様みたいな…」
青空:「ふ。王子様、かぁ」
周子:「そう! だから、青空さんからタバコの匂いするのヤダ」
青空:「そっかー」
周子、青空の袖口を掴む。
周子:「…でも、好きだから」
青空:「…」
周子:「ごめん。嫌いにならないで…ごめんなさい」
青空:「…別に、嫌いにならないよ」
周子:「…ほんと?」
青空:「…」
青空:「周子、この後さ」
周子、掴んでいた青空の袖口を離して立ち止まる。
周子:「…ごめん、この後は…」
青空、周子の向かいに立つ。
青空:「うん。あの男に会うんでしょ?」
周子:「うん…」
青空:「ホテルまで送っていくよ」
周子:「ううん…大丈夫。
周子:青空さんとは、ここまでで」
青空:「そう?」
周子:「…うん。これから他の男に抱かれに行くのに、そんなところ、青空さんに見られたくないから…」
青空:「そ、か」
周子:「うん…じゃあ、行ってきます…」
青空:「…うん。またね、周子」
周子、ホテルの方角に歩いていく。
青空:N「ポケットからスマートフォンを取り出し、遠くなる周子の背中を撮る」
青空:「抱かれたくもない男に抱かれに行くなんて、かわいそうな周子。
青空:でもさぁ、その男の奥さんは、何も知らないんでしょう?
青空:それって、もっと可哀想じゃない?」
ホテルの一室(それなりのホテル)・ベッド(夜)
譲、煙草に火をつける。
周子、ベッドの縁に座り下着を身につけながら。
譲:「お前さ、ウチの病院にいただろ」
周子:「…見てたの?」
譲:「たまたま見えたんだよ。それで? 何しに?」
周子:「病院なんだから、何しに、なんて聞かなくても分かるでしょ」
譲:「ふぅん?」
周子:「結婚、するんだってね」
譲:「どこでそれを?」
周子:「次期院長なんて年寄りは好きでしょ、そんな話」
譲:「(煙を吐く)それで? お前とのこと、誰かに言いふらしたいわけ?
譲:いい歳した売れない地下アイドルなんかの言葉、誰も聞かないよ?
譲:それにさ、そんなことして傷付くのはお前の方だよ」
周子:「別に。あなたも大変ね」
譲:「…あ?」
周子:「このこと、奥さんは知らないんでしょ?」
譲:「…」
周子:「言わないわよ。言ったところで私に得もないし」
譲:「(笑って)そうそう。
譲:お前はそうやってこれからも俺にいいように使われてればいいの」
周子:「奥さんにもそうなの?」
譲:「まさか。いい女だよ。顔もそこそこ、稼ぎもある。
譲:まぁ、セックスは普通、かな。
譲:最近タバコ辞めろってうるせーんだよ」
周子:「あんたの言う「いい女」ってそんなもんなのね」
譲:「なんだよ、嫉妬か? かわいいじゃん」
周子:「バカじゃないの」
譲:「お前は顔はいいからな」
周子:「…」
譲:「売れない地下アイドルも大変だよなぁ。
譲:お前に最初に会った「撮影会」、今もたまにあの時の動画見てるよ」
周子:「…最低」
譲:「(鼻で笑う)地下アイドルのファンなんてやってるキモイ男より全然いいだろ?
譲:医者で、次期院長で、顔もいい。
譲:お前を満足させてやれるのは、俺だけだよ?
譲:な、「結愛」ちゃん?」
周子:「その名前で呼ばないで」
譲、周子の顔に顔を近付ける。
譲:「(笑って)愛を結んで結愛だなんて、笑っちゃうよなぁ。
譲:今まで一度だって、お前に向けられた愛があったか?
譲:愛がお前に何をしてくれた?」
周子:「やめてよ!」
譲:「っ、はっはっは…!
譲:(息を吸う)お前のその顔、好きだよ俺は。もっと歪ませたくなる」
周子:M「男はそう言って私に跨がる。
周子:この男に逆らえない理由も、今となってはよく分からない。
周子:好きに体を使われて、そんな写真を握られたところで、
周子:私はまだ何か、守りたいものがあっただろうか?」
明里と譲が住むマンション・リビング
明里、ダイニングテーブルで資料を見ている。
譲、キッチンから二人分のカップを持ってきて明里の向かいに座る。
譲:「ん。飲み物、ここ置くな」
明里:「ん、ありがとう」
譲:「それ、結婚式のやつ?」
明里:「そう。もー決めること多くて本当大変!」
譲:「迷ったら一番いいやつ頼んどけばいいから。な?」
明里:「…えぇ?」
譲:「ほら、親父の友達のさ、宗教法人やってる人。
譲:その人も結婚式にさ、祝儀出してくれるんだって。結構たくさん」
明里:「私たちの結婚式に? なんで?」
譲:「なんで、って… そりゃ儲かってるんじゃねぇの?」
明里:「だって私、その人に一度も会ったことないのよ?」
譲:「式に来るよ。その時あいさつすりゃいいだろ?」
明里:「んー…」
譲:「親父の顔を立ててやってくれよ。な?」
明里:「…」
譲、資料に目をやる。
譲:「…で? それ、ブーケ?」
明里:「あ、うん。ブーケと式場の飾りの花をね、くちなしの花にしようと思って」
譲:「ふぅん」
明里:「ふぅん、って」
譲:「だって俺、花詳しくねぇもん」
明里:「それは知ってるけどさぁ。まぁ普通そうか…」
明里、スマホでくちなしの花を画像検索する。
明里、譲にスマホの画面を見せる。
明里:「これ。この花」
譲:「…ふぅん? なに、好きなの? この花」
明里:「うん。すっごくいい香りなの。花屋さんではあんまり見かけないけど」
譲:「いいじゃん。白くてキレイだし、きっと似合うよ」
明里:「…えぇ?」
譲:「なに、えぇ、って。えっ、照れてんの?」
明里:「…別に? なんかめずらしいなぁって」
譲:「そう?」
明里:「なんかいいことでもあった?」
譲:「えぇ? いやいや、自分の嫁褒めることくらいあるだろ普通に」
明里:「普段全然そんなこと言わないくせに」
譲:「そうだっけ?」
明里:「そうよ」
譲:「そんな怒んなよ」
明里:「怒ってないです」
譲:「カリカリすんなって」
明里:「…もう」
譲、飲み物を飲み干す。
譲:「じゃあ俺寝るわ。明日早いし」
譲、自分のカップを持ってキッチンへ。そのまま寝室へ行く。
明里:「わかった。おやすみ」
明里、資料をパラパラしている。
明里:「はぁ~。 あと何を決めなきゃいけなんだっけ…」
青空:N「その時、メールの通知音が部屋に響く。」
明里:「ん、メール? なんだろ、珍し」
明里、スマホを確認する。
明里:「知らないアドレス…? はー、誰よ、って…
明里:この写真に映ってるの、譲…?」
木本医院・カウンセラー室
明里:「こんにちは、花江さん。お変わりないですか?」
周子:「はい」
明里:「最近、何か困ることはありませんでしたか?」
周子:「いえ、特には」
周子:N「狭い部屋にキーボードの打鍵音が響く。
周子:形式的な質問と何気ない会話の後に一息つくと、女は私の目を見つめ口を開く」
明里:「最後に花江さん。これはカウンセラーとしてではないんだけど…」
周子:「…はい」
明里:「(腕を捲る)この傷、覚えてる?」
周子:「…それ…」
明里:「…」
周子:「…明里、ちゃん?」
明里:「…うん。チカちゃん」
周子:「うそ。ごめんなさい、私、全然気づかなかった…」
明里:「ううん。私も確信が持てなくて。
明里:地元を離れて都内にいる友人、他にいないから」
周子:「そう…」
明里:「…家には帰ってるの?」
周子:「ううん。もう帰らない。家も、過去も、全部捨ててきたから」
明里:「そう…」
周子:「………その指輪…結婚してるの?」
明里:「あぁ、二ヶ月後にね、式を挙げるの」
周子:「…そう。おめでとう」
明里:「ありがとう。(袖を直しながら)ごめんね急に。
明里:…そうだ、結婚式、良かったらチカちゃんも来て!」
周子:「でも…急に一人増えるの大変なんじゃないの?」
明里:「ううん!式も結構急だったっていうかさ!
明里:ほら、妊娠しちゃって。(お腹をさすりながら)
明里:だから参加者が一人増えるくらい、どうってことないの。
明里:私、チカちゃんにも来てほしい。…だって友達じゃない」
周子:「…考えておく」
明里:「うん。
明里:あ、チカちゃん、お付き合いしてる方とかいないの?
明里:もしいたら、その方と一緒に来てもらってもいいし! ね?」
周子:「(曖昧に笑う)」
明里:「次来る時までに招待状、用意しておくから。
明里:
明里:これからも待ってる。カウンセラーとしても、友達としても」
周子:「…ありがとう…それじゃあ、今日はこれで…」
明里:「うん。またね、チカちゃん」
木本医院近くの道路
周子、早歩き。
青空、周子の進行方向に立っている。
周子:「(呟くように)なんで今更…」
青空:「周子?」
周子、青空に気付いて駆け寄る。
周子:「…青空さん…どうしよう私!」
青空:「何かあったの?」
周子:「あの子知ってるもの、私が、私が殺したの」
青空、周子の肩を掴む。
青空:「周子!」
周子:「…ぁ…」
青空:「落ち着いて」
周子:「…ごめんなさい、私!」
青空:「いいよ、大丈夫だから。ね?」
周子:「…私、私ね、」
青空:「うん」
周子:「(呼吸を整える)…カウンセラーが、」
青空:「うん」
周子:「同級生だったの、小学校の」
青空:「え?」
周子:「前に話したでしょ? 私の、親と、祖母のこと」
青空:「うん」
周子:「小学校の頃、私、あの子に怪我をさせて、それを祖母が庇って謝って」
周子:
周子:「あの子の親は、あの子をすごく可愛がってたから。
周子:傷が残ったらどうするんだってすごい怒って」
周子:
周子:「私、怖くて…あの子の親が怖いんじゃない、親に知られたら、今度こそ、私、死んじゃうんじゃないかって」
周子:
周子:「だから、祖母が謝ったの。
周子:私の責任ですって。だからこの子は悪くないんです、って」
周子:
周子:「私、ホッとしたの。酷い子供だって分かってる、でもこれで、親に知られないで済むって」
周子:
周子:「でもダメだった、私と…祖母も私と、一緒に殴られて」
青空:「周子は悪くない」
周子:「おばあちゃん、まだ息があったのに…お父さんが、階段の上に、運んで…」
周子、青空の目を見る。
周子:「それで…突き落としたの…」
周子:
周子:「…私のせいで、死んじゃった」
周子:
周子:「おばあちゃん、私のせいで、死んじゃったの…!」
周子:
周子:「うっ…」
青空、周子を抱きしめる。
周子、静かに泣く。
青空:「きみは悪くない」
青空:「周子は、悪くないよ。悪いのは…そう。
青空:周子をこんなに不安にさせる奴が悪いんだ」
周子:「私を不安にさせる奴が、悪い…?」
青空、周子の瞳を見ながら。
青空:「そう。だってそうでしょう?
青空:ぼくはきみの親も家も燃やしてあげた。そしたら不安がなくなったでしょう?」
周子:「…うん」
青空:「だから、不安は取り除いてあげなきゃ」
周子:「取り除く…」
青空:「そう、取り除く。周子はその方法、知ってるでしょう?」
周子:「……私…私が、取り除かなきゃ…」
明里と譲が住むマンション・玄関
明里、玄関を開けて部屋に入る。部屋の中は暗い。
明里:「…ふーーー」
譲、奥の部屋から出てくる。
譲:「おかえり」
明里:「わっ! …いたの? びっくりさせないでよ、なんで電気つけてないの?」
譲:「寝てたんだよ。今日遅かったな」
明里:「んー…」
譲:「仕事?」
明里:「そう。…最近来てる患者さんがね、小学校の同級生だったの」
譲:「え? お前の田舎って、九州だよな?」
明里:「うん」
譲:「そんな偶然、あるんだなぁ」
明里:「…なんかさ、色々、思い出しちゃって」
譲:「いろいろ、って?」
明里:「…うん(あまり聞こえてない)」
譲:「明里?」
明里:「…うん。(ハッとして)あ、ごめん、大丈夫だから」
譲:「…」
明里:「あ、今週末は」
譲:「あーごめん、週末は」
明里:「あ、違くて。わかってるから」
譲:「…うん」
明里:「でも、なるべく早く帰ってきてね?
明里:かわいい女の子に囲まれてデレデレしないでよ? あなた、面食いなんだから」
譲:「そんなことないよ」
明里:「あるの、そんなこと。
明里:前もさ、なんだっけ? 熱心にしてたじゃない? あの地下アイドルの…」
譲:「(被せて)もうやめたよ。今は明里だけ」
明里:「(溜息)…どうだか」
譲:「信じて。お前だけだから」
明里:M「もう。と言って、男の腕に収まる。
明里:結婚式までもうすぐ。
明里:大丈夫。全部、全部、上手くいく。
明里:ちょっとしたことが胸に引っかかるのは、きっとナーバスになっているだけ。
明里:そう自分に、言い聞かせる」
木本医院近くの喫茶店・喫煙スペース
譲、タバコを吸っている。
青空、喫煙スペースに入ってくる。
青空:「こんにちは、譲さん」
譲:「あっ、青空さん。こんにちは」
青空:「最近、よく会いますね」
譲:「そう、ですね」
青空:「あ、そうだ。結婚式。
青空:父が行けなくなってしまって。なので代わりにぼくが出席させて頂きますね」
譲:「あ、そうなんですか」
青空:「とても残念がっていました。…まるで自分の息子の結婚式のように」
譲:「いやぁ、はは…」
青空:「それで、父からこれを預かってるんです」
青空、カバンから厚みのあるご祝儀袋を出して譲に差し出す。
譲:「え………これ…」
青空:「直接渡せなくて申し訳ない、って謝っておいてくれと。父が」
譲:「え、でも、青空さん、出席されるんですよね? 式に」
青空:「ええ。それとは別に、です。
青空:あ、もちろん、当日もご祝儀は持っていきますよ?」
譲:「…でも」
青空:「これから何かと入用でしょう?
青空:結婚式に持っていくご祝儀とは別に」
青空、譲に半歩近づき耳元で囁く。
青空:「…そう、これは譲さんが使ってくださって構わないんです。奥さんには秘密で」
譲:「…(生唾を飲む)」
青空、元の位置に戻る。
青空:「…ね?」
譲:「あ…はは。じゃあ…ありがたく頂戴します」
譲、ご祝儀袋を受け取る。
青空:「(にっこりと微笑む)。ぼくも、譲さんのこれからに、期待しているんです。
青空:(小声で)きっとあなたが、ぼくを自由にしてくれる」
譲:「…え?」
青空:「結婚式。楽しみにしていますね」
結婚式場・花嫁控室
青空:N「そして、結婚式当日。
青空:花嫁控室の扉の前に、周子の姿があった」
周子、一呼吸してから花嫁控室の扉を三度ノックする。
明里:「はい。どうぞ」
周子、控室の扉を開け中に入り、後ろ手に扉を閉める。
明里、鏡越しに声を掛ける。
明里:「チカちゃん。来てくれると思ってた」
周子:「…本日はお招き頂き、ありがとう。…とても、キレイだわ」
明里:「ありがとう」
周子:「この香り…」
明里:「いい香りでしょう? くちなしの花。私の、一番好きな花。
明里:ねぇ。くちなしの花言葉、知ってる?」
周子:「…いいえ」
明里:「喜びを運ぶ。…ふふ、本当に、その通りになった」
周子:「…」
明里:「間違いなく私は今日この瞬間、世界で一番幸せな人間なんだわ」
周子:「それは…結婚式を迎える花嫁だもの。
周子:花言葉に頼らずとも、幸せなんじゃないの?」
明里:「…そうね」
結婚式場・ロビー
青空、譲に近寄りながら声を掛ける。
青空:「譲さん」
譲、青空に声を掛けられて振り向く。
譲:「青空さん」
青空:「本日はお招きいただき、ありがとうございます。
青空:ご結婚、おめでとうございます」
譲:「ありがとうございます」
青空:「新婦は控室、ですか?」
譲:「ええ」
青空:「ドレス姿の奥さまは、とてもおキレイなんでしょうねぇ」
譲:「前撮りした時にも見ましたけど、まぁ、キレイでした。
譲:なんて、惚気ですかね」
青空:「いいじゃないですか、惚気。奥さんにも伝えました?」
譲:「いやぁ、直接はちょっと」
青空:「ふふ。きっと喜びますよ。
青空:それに、人が幸せそうにしてる顔がぼく、好きなんです」
結婚式場・花嫁控室
明里:「でもね。私が運んできて欲しい喜びは、もう「結婚」じゃないから」
周子:「…そう」
周子、バッグから刃物を出し、明里に近づく。
明里、席を立って振り向く。
周子:「ごめんね、ッ!」
周子、明里の腹部に刃物を突き刺す。
明里、周子をふんわり抱きしめる。
青空:N「周子が小さく謝罪の言葉を口にすると、明里の腹にナイフを突き刺す」
明里:「ウッ…ゲホッ、ゲホッ…」
青空:N「明里がゆっくりと膝から崩れ、周子も共にしゃがみ込む」
周子:「はぁ…はぁ…はぁ…(荒い息遣い)」(同時でよい)
明里:「はぁ…はぁ…はぁ…(弱弱しい息遣い)」(同時でよい)
周子:「(呟くように)…今更なんで…私の前に現れたの…
周子:私のせいじゃない…私は…被害者なのよ…!
周子:過去は捨てたの…親も家も、燃やしてもらったのに…」
明里:「…私だって…知りたく…なかった、わ…」
周子:「私を傷つける人間は…許さない…」
明里:「…よりにもよって…譲のお気に入りが…チカちゃん、なんて…」
周子:「…………………は?」
青空:N「その瞬間、気付いたのだ。
青空:目の前の女が言っていることに。
青空:それまで、ただの雑音としか認識できなかった言葉が、その意味が、
青空:自身と食い違っていることに」
青空:
青空:N「そうしてさらに、気付く。
青空:花嫁が座っていた椅子の前。
青空:机の上に置かれた、大量の写真や書類の存在に」
周子:「なに、これ…」
青空:N「メールのやり取りや通帳のコピーと思われる紙と共に、譲と映る複数の女性の写真。
青空:その中に、周子の姿もあった」
明里:「…ふ。どこで選択を、間違えたんだろう…」
青空:N「女が呟く。誰に届くでもない言葉を」
譲、花嫁控室の扉を三度ノックし入ってくる。
譲:「明里? もう準備で、き… 明里…明里ッ!?」
譲、明里を抱き起こすと、周子の存在に気付く。
譲:「周子? お前…なんでここに…?」
周子:「わたっ、わたし… 違う、私、こんなつもりじゃ…」
明里:「ふ、ふふふ…」
譲:「! 明里!」
譲、明里に視線を戻す。
明里:「何も知らない、バカな女だ、って…そう、思ってたんでしょう?
明里:ふ。ふふふふふふ…
明里:完璧な幸せじゃないなら、こんなもの、いらない…
明里:(息を吸う)…みんなみんな、私と一緒に、堕ち、て…ぇ」
譲:「………明里? きゅ、救急車… おいっ誰かっ!!!救急車ァ!!!」
青空:N「その後、結婚式は中止された。
青空:明里は救急車で運ばれ、なんとか一命を取り留めた。
青空:お腹の子がクッションになったんだ、と医者が言った。
青空:子供は死産した、らしい」
長めの間
人のいない街の道
青空、鼻歌を歌いながら歩いてくる。
手には週刊誌。
青空:「(週刊誌の表紙を見ながら)なになにぃ?
青空:木本医院・宗教との黒い関係、
青空:エリート医師の不祥事…ねぇ。
青空:
青空:んー、こっちの記事はちっちゃいなぁー
青空:宗教法人「赤猫の夜明け」、
青空:教祖と見られる代表・大井の息子が失踪。
青空:
青空:ふふっ、ふふふふふふふ!
青空:みぃんな、みぃんな、堕ちて行ったねぇ~。(週刊誌を捨てる)
青空:
青空:あーーー、自由って、最高~~~」
青空、街に消えていく。