恋愛
君がいなくなるその時が世界の終わり。
・作中台詞の[彼女/彼]はどちらか選択して読んでください。 ・主人公「僕」ですが、女性キャラに変えて読んでもOK ・一人称(僕、私、俺、etc)、相手の呼び方(君、あなた、お前、etc)、語尾、変更可。 ・配役人数変更可。1人芝居でも複数何名でも。 ・ジャンル「恋愛」にしていますが、恋愛じゃなくてもOK
配役
001
予想時間15 分
文字数4227 文字
登場人物
名前タップでセリフ抽出僕
主催者
青年
女
老紳士
X
本編
世界の終わりに旅に出る。
僕は、地球最期の時に、*西極《せいきょく》ツアーに申し込んだ。
――
僕:
ただいま。
今日はね、素敵なものを見たよ
僕:
改修工事してた図書館にしばらくぶりに行ってきたんだ。
庭がすっごいの
イギリスの庭園みたいになってて。
日本じゃないみたいだった
花が色んな種類植えられてて、植物がさ、すっごいみどりみどりしてるの!
もう、緑じゃないの、グリーーン!!って感じ
目に刺さるくらい鮮やかでさ、
なんかいいもん見たなーっていい気分になったよ
僕:
あ、紅茶入れようか
オレンジペコー!好きだったよね
イギリスの「ガーデン!」って雰囲気にぴったりじゃない?
――
僕:
地球のマントルが活動を収縮し、
地表が急速に冷えていく、
いわゆる氷河期がやってくると突然発表され
人類は滅亡することになった
――
僕:
ねえ、英語勉強してたよね
Duolingo ?
僕:
あれ、この前同僚がやっててさ、
喋ってるの英語っぽいけど英語じゃないなって思って、訊いたら、
なんとオランダ語!
凄くない?
僕:
え、僕も一緒に始めたはずだろって?
そうねー、うん。
あははー、
一週間坊主だった
でもいいよね、やっぱさ、
いろんな国の人とコミュニケーション取れるっていうのはさ
君はえらいよ
――
僕:
[彼女/彼]がいなくなったのは
暑い夏の終わりごろだった。
僕:
誕生日を迎えたと、ついこの間、お祝いをしたばかりだったのに。
僕:
10年来の夢がかなったと、ついこの間、お祝いをしたばかりだったのに。
――
僕:
地球が突然、氷河期を迎えるというニュースを
僕たちは最初ぽかんとした顔で聞いていたと思う
僕:
資源は掘り出せなくなり
信じられないスピードで
地表は冷えていった
僕:
経済活動は崩壊し
人々の多くは最期の時を迎える準備をし始めた
僕:
そのうち、世界の好きな場所で終わりを迎えよう、なんて言い出す好事家こうずかたちが現れた。
僕:
世界のあらゆる場所、どこにでも連れて行ってあげますよ、という太っ腹だ。
お金などもう何の交換価値もないし、あるのはただ共に過ごそうという親切心
――
僕:
僕が西極せいきょくツアーに申し込んだのは
何もない世界にいきたいと思ったから。
なぜなら君がいないから。
もう僕には何もなかった
僕:
君がいなくなったその時が
世界の終わりだったから
――
主催者:
皆さん、
ようこそおいでくださいました。
この地を最期の地に選んでくれたこと、心より感謝申し上げます
皆様が到着する前からこの基地の燃料はとうに尽き、予備電源に切り替わっております。
最期まであと数時間、、4時間といったところでしょうか
ここに集まった皆さまと最期の時を過ごすことになったのも何かの縁、
それぞれご自分のお話、好きなお話をしてまいりましょう
もちろん、最期に言い残すことも、あればぜひ。辞世の句、というやつですね
青年:
…自分は、中学生のころからずっとアメフトやってて、、そればっかりやってました
日本代表にもなってプロになってNFL行くはずでした
ここに来たのは…なんかアニメの影響ですね。クラスで流行ってたんですよ。俺は練習漬けで話には入れなかったけど。
高校卒業して、これからって時に… 世界がこんなことになるなんて
…ありえないっすよ…
…なんでだよ!なんで…
まだやりたいこといっぱいあった、
将来はドルフィンズ入るはずだった!
可愛い彼女とフロリダのディズニー・ワールド行くはずだったんだ!!
なんでこんな… こんな… 俺、まだ18だよ!?
女:
アタシは、
もう何も残ってないの
舞台をずっと続けてきたわ
歌にお芝居に、華やかと言われる世界で生きてきた。
魑魅魍魎、いい人間も悪い人間も、色んな人たちと楽しいことも苦しいことも、分かち合ってきて
やりたいようにやってきたわ。
だけど結局、
何も残らなかったわねえ
ひとり産んだ我が子さえ、
世界が終わるっていうのに音沙汰なしよ
嫌になっちゃうってえの、まったく。
…どうしてるのかしらね。
…最期に、何もない世界を見てみたかったのよ。
真っ白な世界を。
老紳士:
私は昨年、妻をがんで亡くしました
鬼嫁なんて呼ばれもしましたが、見合い結婚以来、40年ずっと、仕事ばかりの私を支え続けてくれました
定年退職したら、夫婦で自由に世界旅行をするのが夢でした。
それが叶わぬものとなり…
妻が一番あこがれていた西極大陸を最期の旅行先に選んだのです。
荷物は極力少なく身軽に、が夫婦の信条でしたので、この小さな写真立てと共に世界を回ってきました。
後悔の少ない人生だったと自負していますが…
仕事ばかりじゃなく、長い休みを取って二人で旅行に行っておけばよかったですね
…本当に、後になって悔やむとはこのことです
僕:
僕は…
僕:
ただのサラリーマンです。
目標もこれといった夢もなく、ただ日々を穏やかに過ごすのが楽しみでした。
趣味は……あ、いえ…
家で過ごすことが多かったです
3年前、ある人と出会い…
穏やかな日常の中、鮮やかに色がついたような日々を過ごしました。
僕:
楽しかった… 大切だった。
僕:
…でも、ある日突然、[彼女/彼]は、いなくなりました。本当に、突然…
何の前触れもなく…、、いや、前触れはあったんです。
前触れはあった… [彼女/彼]はSOSを出していた。
僕が気づかないふりをしてただけで、
気づきたくなかっただけで…
[彼女/彼]はいなくなった
生きているのか、この世を去ったのか、真実は誰も分からない。
それ以来、僕の日常は変わっていきました。
僕:
色づいていたはずの世界が色褪せ、
目の前の現実すらぼんやりし始めた
味や香りに鈍感になり… 楽しむという感情が、薄くなっていったんです
僕:
ただ、…ただ、僕は、生きているだけだった
僕:
静まり返る会場
冷たい室内に響き渡る自分の声。
そのうしろで、キーンという音が聞こえる気がした
僕:
僕は、、僕は。
僕:
[彼女/彼]に、生きていて欲しかった…
苦しまないでいてほしかった
僕:
笑って一緒に毎日過ごしてくれていただけで、幸せだったのに
僕:
[彼女/彼]が苦しんでいることは知っていた、
でも僕にはどうすることもできなかった
何をしてあげたらいいかなんて分からなかったんだ
近づくことも、離れることも、怖かった…
僕:
[彼女/彼]に、何もしてあげられなかった
僕:
[彼女/彼]がいなくなってしまったことを、
救いだという人もいた、
もう苦しまずに済むならそれが幸せだろうと
僕:
でも僕は…
僕は…、僕は…!!!
僕:
…苦しみが終わることが救済?
違う!!
ちがうちがうちがう!!!
そんなものが救済なんかであるものか!!!
僕:
君は!生きてなきゃいけなかったんだ!
幸せに笑ってなきゃいけなかった!
それが当たり前なんだ!!
僕:
君が苦しむというのなら、それなら、それなら
そんなの、間違っているのは世界の方なのに!!!
僕:
僕は…
僕:
僕は…
君にずっと、笑っててほしかったんだ…
そんな世界で、あってほしかった…
僕:
自分で聞いたことのない程の大声
これまで知らなかった絞り出すような喉からの嗚咽
それが自分の口から出ている音だなんて、到底信じられなかった
でも僕:は、長い時間、声を上げ泣き続けた
僕:
しんとした会場に
僕の嗚咽だけが鳴っていた
――
主催者:
皆さん、
いよいよ最期の時となりました。
予備電源の残り時間はあと20分です。
この基地内で過ごすのも良し、外に出ていくのも良し、、
人生最期の時間を
心残りなく過ごしていただきたいと思います。
それでは皆さん、さようなら
出会ってくださりありがとうございました。
よい終末を。
――
僕:
主催者の声が途切れた後、
会場の灯りは落ち、狐火のような小さなLEDの光だけが残った。
誰も話す人はいなかった
僕:
すすり泣く声や、
小さく歌うような声が聞こえてくる
僕:
僕:は外に出ることにした。
僕:
防寒着は着ているものの
肌をつんざくような冷たさが、マフから出ている頬を殴る
僕:
…静かだ…
僕:
「何もない音」というものがあるのだと感じた瞬間、
背後からかすかに、けれど大きな声が聞こえてきた
X:
「オーロラだ!!」
僕:
振り向き空を見上げた僕:の眼前に広がったのは
夜空にゆらぎ煌きらめく、色とりどりの大きな光たち
僕:
黄色に緑、オレンジ色
艶艶つやつやと光り、不可思議にうごめく
僕:
蒼あおい空いっぱいに広がる、地球の衣ころも
僕:
…ああ……、ああ…! 君の色だね
僕:
空を踊る光の帯たちから、僕:はずっと目を離さなかった
――
僕:
寒い
いやもう、寒いとも感じないか
凍える、かじかむ、痺れる…
もはや感覚が感じるという機能を働かせられていない。
僕:
冷たい、
痛い、
という感覚もすでに過ぎ去っていた
僕:
ぼんやりと視界にもやがかかる
思考はもうろうとしている
…眠い、のか? これが?
僕:
…あたたかい…
僕:
そういえば、君の死にざまを聞いていなかった
…いや君は死んでいないんだから、そんなものないのか
僕:
お悔やみ申し上げます、も、言ってないな…
ううん…、だって、、きみ、、は、、しんでないんだ、、か、、ら…
僕:
すべてにもやがかかる
頭の中にとばりがゆっくりと降りていく
君もこれを感じたのだろうか
僕:
…ああ、消える、消えていく。
命ってこうやって消えていくのか
消える
還る
すべてに、還っていく
僕:
ああ、真っ白な世界。
僕:
そこに、君は いるのかい
―― Fin.