ホラー

咲く、プルメリア

author作者:かさねちえ
単発作品
警告・特記事項:R15

#台本師の戯れVol2 参加作品(条件:3:1、ホラー、2人以上死ぬ)

配役
310
予想時間40
文字数9899 文字

登場人物

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宏樹能勢 宏樹(のせ ひろき) 印刷会社に勤める営業マン。事故で妻を亡くしている。 道隆、悠麻、杏奈とは高校からの付き合い。 妻が亡くなる(31歳)→物語序盤(34歳)→アンジュの誕生日(35歳)
アンジュ能勢 アンジュ(のせ あんじゅ) 杏樹。 母が亡くなる(5歳)→アンジュの誕生日(9歳)→物語後半(高校生)
道隆山井 道隆(やまい みちたか) 宏樹と同じ会社に勤めている。同期。 宏樹、悠麻、杏奈とは高校からの付き合い。 三人の中では一番落ち着いている。物腰柔らか。
悠麻多田 悠麻(ただ ゆうま) 宏樹と同じ会社に勤めている。同期。 宏樹、道隆、杏奈とは高校からの付き合い。 明るく人当たりがいい。気配りができる。
本編
宏樹M「妻が死んだ。事故だった」
アンジュ「あーちゃんね、パパ、だーいすき!」
宏樹M「妻のことが、世界で一番好きだった。愛していた」
アンジュ「パパは? パパはあーちゃんのこと、すき?」
宏樹M「子供なんて、いらなかった。
宏樹だって子供ってことは、杏奈の半分でしかないだろ?
宏樹そんなの愛せないって、愛せるはずがないって、思ってたんだ」
アンジュ「(タイトルコール)咲く、プルメリア」
◯印刷会社(夕方)
就業後の会社。まばらに人がいる。
宏樹、忙しそうに仕事をしている。
悠麻「宏樹! 飯行こうぜぇ!」
宏樹「悠麻…無理。仕事終わってねーもん」
悠麻「はぁ? それ、急ぎの仕事じゃないだろ。なぁ道隆?」
道隆「ん? どれどれ…あ、これは確か明後日までに出来てればいいやつだね」
宏樹「他にも…広報誌の校正と、あと夏祭りのポスターのチェックと…」
道隆「うん。どれも急ぎの仕事ではないね」
悠麻「ほらぁ! 飯! 早く行こうぜぇ!」
宏樹「…チッ」
悠麻「あああ、お前その舌打ち良くないぞぉ? な、道隆?」
道隆「そうねぇ」
宏樹「客先ではやらねぇよ」
悠麻「あったりまえだろ!」
道隆「そういうのは癖になるから。やめた方がいいね、うん」
悠麻「ほらぁ!」
宏樹「…うるせぇよ」
悠麻「たまにはいーじゃん! 金欠って訳じゃないんだろ?」
宏樹「…まぁ」
悠麻「んっ! じゃあほら、行くよぉ」
宏樹「…なんだよ」
道隆「まぁまぁ、たまにはいいじゃない。悠麻もさ、心配してんだよ。宏樹のこと」
宏樹「…」
◯会社近くの食堂(夜)
悠麻、扉を開け店内に入ってくる。
道隆と宏樹、悠麻に続く。
悠麻「おばちゃーん! 俺、チャーハンとミニラーメン! しょうゆで!」
道隆「俺は唐揚げ定食と餃子。宏樹は?」
宏樹「…豚骨ラーメン、味玉トッピング」
悠麻「以上で! お冷、俺持ってくわ」
三人、テーブル席に着く。
悠麻「んしょ、っとぉ。久々じゃね、三人でここ来るの」
道隆「宏樹が付き合い悪いからねぇ〜」
宏樹「すんませんっしたぁ。…んで、なんだよ」
悠麻「なんだよってなんだよぉ」
宏樹「俺いなくても、二人で来れば良かったじゃん」
悠麻「お前と話したくてさぁ」
宏樹「はぁ?」
道隆「ここんとこずっと仕事詰めすぎじゃない? …杏奈ちゃんが亡くなってからさ」
宏樹「…仕事があるのはいいことだろ」
悠麻「いいことかもだけどさ! お前はアレじゃん、子供との時間をもっと取った方がいいんじゃねぇの? って話!」
宏樹「はぁ?」
道隆「実際、どうなの?」
宏樹「…アンジュは、俺がいなくてもスクスク育ってるよ。俺んちの親も杏奈の親も、気にしないでいいからって預かってくれるし」
悠麻「そりゃジジババはそう言うだろ」
道隆「アンジュちゃんが寂しいんじゃないの?」
宏樹「…どうだろうな」
悠麻「まだ小さいだろ? えっと、何歳だっけ」
宏樹「…知らない」
悠麻「は?! おま、娘の歳だぞ知らないって何だよ!」
宏樹「…」
道隆「…宏樹は、それでいいと思ってんの?」
宏樹「は? 俺らの親だってそんなもんだったろ。特に父親なんてさ。
宏樹夜遅くまで仕事して、朝は子供より早く家を出る。普通だろ、それが甲斐性ってもんだろ?」
道隆「昔がどうとか今がどうとか、そういう話じゃない。
道隆アンジュちゃんはそれで、寂しくないのかって話してんの」
宏樹「…そんなの」
宏樹「…いない方がいいだろ、俺なんて」
悠麻「それを決めるのは、お前じゃないぞ?」
宏樹「…」
悠麻「お前いっつも他の人の仕事引き継いで遅くまで残業して…そりゃ助かるよ? でもさ、アンジュちゃんの親は、お前しかいないんだよ。なんでそんなに詰め込むんだよ」
宏樹「…」
道隆「宏樹が杏奈ちゃんのこと、引き摺ってるのは分かるよ。でもさ、」
宏樹「引き摺って悪いかよ」
道隆「そう言うことを言ってるんじゃない」
宏樹「杏奈が死んで、いきなり死んでさ、そんなの引き摺るだろ! 引き摺って悪いのかよ!」
道隆「お前は父親だろ!」
宏樹「っ、」
道隆「(ため息)、杏奈ちゃんが居なくなって寂しいのは、辛いのは…お前だけじゃないだろ?」
宏樹「…」
道隆「乗り越えろなんて簡単に言えないよ。でもさ…
道隆アンジュちゃんは、お前に側にいて欲しいだろ。家族はいても、親はお前しかいないんだよ」
宏樹「…俺に、どうしろってんだよ…」
悠麻「…ごめんねおばちゃん、空気悪くしちゃって。
悠麻これ持ってくわ、ありがとう!」
宏樹「…」
悠麻「一旦食おうぜ! 俺腹減っちゃったよ!」
道隆「…そうだね。ありがとう、悠麻」
宏樹「…帰る」
悠麻「は?」
宏樹「(財布から札を出してテーブルに置く)俺、先に帰る。悪いけどそれ、適当に食べて」
悠麻「はぁ?! おいっ、宏樹!」
道隆「…はぁ(ため息)」
悠麻「なっ、ちょ、おいっ! ばか! こんな食えるかよぉ!」
アンジュ:N「それから、一年後」
◯宏樹の家(夕方〜夜)
アンジュの誕生日。
悠麻「アンジュちゃん! お誕生日おめでとう〜!」
アンジュ「(悠麻に飛びつく)ありがと、悠麻!」
宏樹「悠麻くん、だろ?」
アンジュ「えー!」
悠麻「いいじゃんいいじゃん! 俺が嬉しいから、そのままで!」
宏樹「ダメだよ!」
アンジュ「もしかしてパパ、やきもち〜?」
悠麻「あっ、そういう? なぁんだ、素直じゃないなぁ〜宏樹は!」
宏樹「ばっ、ちげーし! アンジュ! 女の子なんだから、お淑やかにしなさい!」
アンジュ「え〜?」
悠麻とアンジュがブーブー言っている。
道隆「ふふ」
宏樹「なぁに笑ってんだよ」
道隆「いやぁ? まさか宏樹が、こんなに子煩悩なパパになるなんてなぁ〜って」
宏樹「お前たちが言ったんだろ?」
道隆「まぁ…そうなんだけどね」
宏樹「…今日、ありがとな」
道隆「いいのいいの。宏樹から娘の誕生日会どうしようって言われた時はビックリしたけどさ」
宏樹「それは…さーせん」
道隆「…本当に良かったよ。もう笑えないんじゃないかと思ってたから」
宏樹「最近アンジュ、よく笑うようになったよ。お前たちのおかげ」
道隆「それは違う。宏樹が頑張ったからでしょ?
道隆それにさ、笑えて良かったのはお前もだよ」
宏樹「…」
道隆「宏樹?」
宏樹「…前はさ。杏奈が俺の世界の中心で、杏奈がいない世界じゃ生きてる意味も意義もないって思ってて。
宏樹…情けないよな、父親なのに」
道隆「父親も一人の人間でしょ」
宏樹「…うん。だから、あの時はうるせぇって思ってたんだけどさ…」
道隆「考えが変わったんだ?」
宏樹「…杏奈が残してくれたアンジュがいるんだ。俺は、アンジュのために生きなきゃな」
道隆「難しく考えなくてもいいんだよ」
宏樹「…うん」
アンジュ「ねー、パパぁ! あーちゃん、早くケーキ食べたい!」
道隆「えー、アンジュちゃんに俺たちからプレゼントあるんだけど?」
アンジュ「そーゆーのは先に出してよぉ!」
宏樹「こらぁアンジュ!」
アンジュ「はぁい。…んんっ(咳払い)、プレゼントを頂けるかしら?」
道隆「はいはい。今お渡ししますよ、お姫様」
アンジュ「よろしい〜! 控えおろう〜!」
悠麻「ぷはっ! それ、杏奈ちゃんもよく言ってたよなぁ!」
アンジュ「うん! あーちゃんがちっちゃいころにね、ママと映ってるビデオでよく言ってるの見たから!」
悠麻「今もちっちゃいだろ」
アンジュ「悠麻ぁ〜!!!」
道隆「はい、アンジュちゃん。俺と悠麻から。お誕生日おめでとう」
アンジュ「ありがとう! 開けていい?」
道隆「いいよ」
悠麻「ビックリするなよ〜?」
アンジュ、プレゼントの包みを開けて中身を取り出す。
アンジュ「…これ、カメラ!」
道隆「どうかな?」
アンジュ「あーちゃん、カメラ欲しかったの! 本当にありがとう! 嬉しい!」
悠麻「よかった、喜んでくれて!」
アンジュ「大切にする!」
道隆「うん。そうして」
アンジュ「これ、すぐ撮れる?」
道隆「電池式のにしたから、電池入れればすぐ撮れるよ」
アンジュ「撮りたい! 悠麻ぁ、電池入れて!」
悠麻「はいはい、貸して?」
宏樹「よかったな、アンジュ」
アンジュ「うん!」
しばらくして
アンジュ「うぅん…」
宏樹「アンジュ? 眠いならベッド行って」
アンジュ「…まだ大丈夫…」
悠麻「そろそろ俺たちも帰るし。早く寝な?」
アンジュ「えぇ悠麻、もう帰っちゃうの?」
宏樹「わがまま言わないの」
アンジュ「…はぁい」
宏樹「立てる?」
アンジュ「うん…」
悠麻「またすぐ来るから。そんなしょげんなって」
アンジュ「…じゃあ明日来て」
悠麻「明日はちょっと…早すぎない?」
アンジュ「だってぇ」
宏樹「困らせるんじゃないの。またすぐ会えるから」
アンジュ「ほんと?」
悠麻「おぉ、約束!」
アンジュ「…うん。じゃあ悠麻、道隆くん、またね。おやすみなさい」
悠麻「おやすみ〜」
道隆「おやすみ」
アンジュ、部屋を出ていく。
宏樹、アンジュが部屋に戻るのを確認して口を開く。
宏樹「今日はありがとうな。マジで助かった」
道隆「いいのいいの。男親だと大変でしょ」
悠麻「それに俺達も楽しかったし!」
宏樹「プレゼントまで用意して貰っちゃって。本当、申し訳ない」
道隆「そこは、ありがとうでいいんだよ」
悠麻「そうそう!」
宏樹「…アンジュがカメラ欲しかったなんて知らなかったよ」
悠麻「あぁ、俺もさ道隆がカメラにしようって言ったとき、女の子へのプレゼントでカメラ? って思った」
宏樹「道隆が?」
道隆「アンジュちゃんが前にね、パパを撮ってあげたいんだって言ってたから」
宏樹「…そっか」
悠麻「お前、そういうところマメだよなぁ」
道隆「悠麻は色々雑だからねぇ」
悠麻「おい」
道隆「褒めてるって」
悠麻「うそつけっ」
宏樹「…ふっ」
悠麻「あ〜宏樹、片付け仕切れなくてごめんな」
宏樹「いいよ。来てくれただけで十分。
宏樹予定より遅くなっちゃって、こちらこそごめん」
道隆「気にしないで。どうせ暇してたし」
悠麻「おう! いつでも呼べよ!」
宏樹「…助かる」
道隆「じゃあ、そろそろお暇しようか」
悠麻「そうだなぁ。また会社でなぁ!」
宏樹「おう。気をつけて帰れよ」
◯帰り道(夜)
悠麻と道隆、話ながら歩いている。
悠麻「アンジュちゃん、ますます杏奈ちゃんに似て来たなー」
道隆「…女の子だからね、母親に似るんじゃない?」
悠麻「いや顔もそうなんだけどさぁ、言うことがさ」
道隆「あぁ、口癖?」
悠麻「そ」
道隆「まぁ、似るんじゃない? 親子なんだし」
悠麻「でもさ、杏奈ちゃんが亡くなった時、アンジュちゃんまだ小さかったろ? 母親の口癖なんて覚えてるもんかな?」
道隆「…うーん」
悠麻「アンジュちゃんの中に、杏奈ちゃんがいるのかも…?」
道隆「何それ。心の中に、的なこと?」
悠麻「…守護霊、みたいな?」
道隆「(ため息)。お前、ほんと好きなそういうの」
悠麻「あり得ない話じゃないだろぉ?」
道隆「あのなぁ、アンジュちゃん言ってただろ。
道隆ママが映ってるビデオを見たって。それで覚えたんだよ。そっちの方があり得る話だろ?」
悠麻「…まぁ、そっかぁ」
道隆「そうそう」
悠麻「…今日さ、喜んでくれてよかったよな。宏樹も、アンジュちゃんも」
道隆「そうね〜」
悠麻「しっかし、パパを撮ってあげたいからカメラが欲しいなんて。すっかりパパっ子だよなアンジュちゃん!」
道隆「…」
悠麻「…ん? どした?」
道隆「…アンジュちゃんがさ、前に言ってたんだよ。
道隆ママの写真やビデオはたくさんあるのに、パパやアンジュのはあんまりないんだって。
道隆宏樹、杏奈ちゃんが生きてるときはカメラが趣味で、よく杏奈ちゃんを撮ってたじゃん」
悠麻「あぁ、そういや撮ってたな」
道隆「でも杏奈ちゃんが亡くなってから…撮らなくなったからさ。
道隆撮る側だった宏樹の写真がないのは分かるよ? でもさ、普通子供が小さい頃の写真なんて、馬鹿みたいに撮るものじゃん」
悠麻「あぁ、まぁうん。うちもアルバムたくさんある」
道隆「だろ? だからさ…振り返ってみて自分の写真が無い、なんて。寂しいだろ」
悠麻「…道隆は優しいな」
道隆「別に。優しい訳じゃないよ」
悠麻「優しいよ。俺が保証する」
道隆「…はず」
悠麻「えぇ…? お前が恥ずかしがったって嬉しくねぇんだけどぉ」
道隆「うるさ」
悠麻「んだよ、褒めたのに」
道隆「…じゃ、俺こっちだから。また明日」
悠麻「ん。お疲れ!」
◯宏樹の家(夜)
宏樹、アンジュの部屋のベッド横でアンジュの寝顔を見ている。
アンジュ「…ん。パ、パ…?」
宏樹「あ、ごめん、起こしちゃった?」
アンジュ「…大丈夫」
宏樹「今日、楽しかった?」
アンジュ「うん、楽しかった。ありがとう、パパ」
宏樹「良かった」
アンジュ「パパは?」
宏樹「え」
アンジュ「パパは、楽しかった?」
宏樹「…楽しかった」
アンジュ「ふふ。良かったね。三人、仲良しだもんね」
宏樹「…そうだね」
アンジュ「ねぇパパ…」
宏樹「なに?」
アンジュ「パパはあーちゃんのこと、好き?」
宏樹「え…なんで」
アンジュ「あーちゃんね、パパ、大好きだよ」
宏樹「…」
アンジュ「パパ?」
宏樹「…」
アンジュ「…好きよ」
宏樹「…っ、…アン、ジュ…?」
アンジュ「好きよ、宏樹」
宏樹「…っ!! …俺も…俺もだよ…!」
アンジュ「ずるい人。好きって言ってくれないの?」
宏樹「ぁ…ぁ、好きだよ…杏奈…!」
道隆M「あの日から二年後、宏樹は死んだ。事故だった。
道隆赤信号に気付かなかったのか車道に出て…そのままトラックに轢かれて、即死だったらしい」
◯火葬場、外の喫煙スペース(昼)
宏樹の火葬中、精進落としが振る舞われる中、道隆が会場を抜ける。悠麻がそれに続く。
道隆、タバコに火をつける。
道隆「俺心のどこかで、いつか宏樹は杏奈ちゃんの後を追っちゃうんじゃないかって、ずっと思ってた」
悠麻「…うん」
道隆「…事故…なんだよな」
悠麻「…」
道隆「…(ため息)」
悠麻「…でもこれで、やっと宏樹は杏奈ちゃんと一緒になれたのかな」
道隆「…どうかな」
悠麻「道隆、気付いてた? 杏奈ちゃんの骨壷、ずっと宏樹の家にあったの」
道隆「…気付いてたよ」
悠麻「宏樹、杏奈ちゃんと離れたくなかったんだと思う」
道隆「…」
悠麻「…そういやさっき、変なこと聞いたんだけどさ」
道隆「…?」
悠麻「杏奈ちゃんの骨壷、中身が異様に少なかったらしいんだよね」
道隆「…なんで」
悠麻「さぁ、そこまでは」
道隆「…」
道隆M「アンジュちゃんは、杏奈ちゃんの実家に引き取られると聞いた。
会いに行く機会も理由もなく、数年が過ぎた」
◯宏樹と杏奈の墓の前(昼)
道隆、宏樹と杏奈の墓がある寺の駐車場に車を停めて悠麻に電話をする。
道隆「…もしもし、悠麻? 着いた。今どこ?
道隆もう墓の前にいるの? うん、うん。花買って来た。
道隆大丈夫、行き方は分かるし。すぐ向かうから。じゃ」
道隆、電話を切り花を持って車を出ると墓に向かう。
悠麻、墓の前にいる。
悠麻「よっ」
道隆「悠麻。ごめん、遅くなった」
悠麻「そう? 時間通りだよ。そ、れ、よ、り〜…」
道隆「…?」
悠麻「じゃじゃーん!」
アンジュ、悠麻の後ろから出てくる。
アンジュ「…こんにちは」
道隆「…ア、アンジュ…ちゃん?」
アンジュ「…うん」
悠麻「この春、高校生になったアンジュちゃん! 今日は制服で来てくれました〜!
悠麻パチパチパチパチ〜!」
アンジュ「悠麻くんから、パパのお墓参りに行くからアンジュちゃんもどうって誘われて…」
道隆「そう…だったんだ」
アンジュ「…うん」
道隆「…」
アンジュ「…」
悠麻「ちょっとちょっとぉ! 二人でなに人見知りしてんのぉ!」
道隆「、だって、すごく久しぶり…だったから…」
アンジュ「…今日ね、パパとママに制服姿見せたくて。それで私も、一緒に連れてきてもらったんだ」
道隆「その制服…」
アンジュ「うん。パパとママと、同じ学校の」
道隆「…うん」
アンジュ「道隆くんも、高校同じだったよね?」
悠麻「俺もね!」
道隆「…お母さんに、似てるね」
アンジュ「生き写しだって、おばぁちゃんによく言われる」
悠麻「いやほんと、杏奈ちゃんが若返って帰ってきたみたい!」
アンジュ「うふふ」
悠麻「…っと、ごめん! 俺この後用事入っちゃってさぁ。道隆、アンジュちゃん送ってってくんない?」
道隆「へ?」
アンジュ「私は大丈夫だよ」
悠麻「ダメ、ちゃんと送ってもらって! じゃないと俺、宏樹と杏奈ちゃんに申し訳ないから!」
アンジュ「パパもママも、そんなことで怒らないよ」
悠麻「だーめ」
道隆「…アンジュちゃん、送ってくよ」
アンジュ「…じゃあ、お願いします」
悠麻「ん! じゃあ俺行くから!」
道隆「そんなに急ぎなの?」
悠麻「そぉなの、ごめんね道隆! 俺の分の線香はもうあげたから!
悠麻アンジュちゃん、たっぷりわがまま言っていいから!
悠麻どっかでご飯でも奢ってもらいな〜!」
道隆「はぁ?」
悠麻「それくらい、いいだろ? せっかく来てくれたんだし〜。積もる話もあるだろうし〜?」
道隆「いや、アンジュちゃんも嫌だろ、こんなおっさんと…」
アンジュ「いいよ!」
道隆「…え?」
アンジュ「私は、いいよ」
悠麻「ほらぁ」
アンジュ「道隆くんは、いや?」
道隆「ぁ…嫌、ってことはない、けど」
悠麻「んだよ、高校生みたいな返事して」
道隆「…」
アンジュ「悠麻くんも、ありがとう」
悠麻「うん! じゃあ、またね」
アンジュ「うん。またね」
道隆「…」
アンジュ「…で」
道隆「…え?」
アンジュ「どこに連れてってくれるの? 道隆くん」
道隆「あー…どこか、行きたいところある?」
アンジュ「じゃあさ、ちょっと歩かない?」
◯公園(昼)
アンジュ、公園端のベンチに座る。
子供はまばらに遊んでいる。
道隆、缶を二本持ってアンジュの隣に座る。
道隆「はいジュース。これで良かった?」
アンジュ「わ、私が好きなのよく覚えてたね」
道隆「覚えてるよ」
アンジュ「ふふ。優しい」
道隆「…」
アンジュ「道隆くん、昔から優しかったもんね」
道隆「…普通だよ」
アンジュ「ねぇ道隆くん、悠麻くんが言ってたんだけどさ。まだ彼女いないの?」
道隆「いきなりその質問?」
アンジュ「だって道隆くん、優しいし、ビジュも悪くないし。言い寄ってくる女の一人や二人、いるんじゃないの?」
道隆「…いないよ。もうおじさんだし」
アンジュ「えー、もったいない」
道隆「俺のことはいいから。アンジュちゃんは学校どうなの?」
アンジュ「話、逸らさないで」
道隆「…俺。彼女とか…作る気ないから」
アンジュ「なんで?」
道隆「…」
アンジュ「ねぇ、道隆くん」
道隆「…」
アンジュ「…まだ私のこと、忘れられない?」
道隆「………え?」
アンジュ「高校生のとき、言ってくれたもんね道隆くん。
アンジュ私のことが好きだって。でも親友を裏切ることはできない、って」
道隆「…っ! なんで、それを…」
アンジュ「でも気持ちは伝えたかった、って」
道隆「…」
アンジュ「道隆くん、自分勝手だよね。
アンジュ親友を裏切れないなら、言わなきゃいいのに」
道隆「…アン、ナ…ちゃん…?」
アンジュ「でも私に言った。好きだって。
アンジュ欲しかったんでしょ? 私が。
アンジュ気持ちにブレーキがかけられなかったんでしょ?
アンジュ…私に、本当は道隆くんが好きだったって、言って欲しかったんでしょう?」
道隆「…や、めろ…」
アンジュ「悪者になりたくなかったんだよね、道隆くんは。
アンジュ奪う勇気もない癖に、それでも私が欲しかった」
道隆「…やめてくれっ!」
アンジュ「引き摺ってるのは、道隆くんの方なのにね」
道隆「…なんで」
アンジュ「…なんで?」
道隆「だって、杏奈ちゃんはっ…死んだんだ…!」
アンジュ「…ふふっ。
アンジュねぇ私、あの頃の私みたいでしょ? 姿も、声も」
道隆「(息が荒くなる)」
アンジュ「あの日の続き、する?」
道隆「…許してくれ…」
アンジュ「許す? なにを許す?」
道隆「…っ」
アンジュ「私を好きになったこと?
アンジュそれとも、親友を裏切れなかったこと?」
道隆「…はぁっ、…はぁっ、」
アンジュ「それとも………私を、殺しちゃったこと?」
悠麻M「その日、道隆が死んだ。
悠麻事故…ではなく、ビルから飛び降りた」
◯どこか(昼)
アンジュ「…それで? 悠麻くんは何がしたかったワケ?」
悠麻「何って?」
アンジュ「悠麻くんなんでしょ? パパに入れ知恵したの。
アンジュママの遺骨を私に食べさせたら、私がママになる、とかそういうの」
悠麻「ザックリだなぁ〜。そういう話があるんだよねぇって言っただけだよ。
悠麻あと、元の話は遺骨じゃなくて、ミンチにした指なんだけどね」
アンジュ「げぇ。悪趣味…」
悠麻「そういうオカルトが本当に起きたら、面白いじゃん?
悠麻それに…杏奈ちゃんが戻って来たら宏樹も嬉しいだろうと思ったし…」
アンジュ「…で?」
悠麻「…? でってなに?」
アンジュ「面白かったの?」
悠麻「…正直さ。
悠麻こんなことになると思わなかった」
アンジュ「…そう。それ聞いて安心した」
悠麻「安心?」
アンジュ「こういうラストを望んでた。なんて言ってたら、殴ってたから」
悠麻「うはぁ〜良かったぁ、間違えないで」
アンジュ「…」
悠麻「で、結局どうなの?
悠麻君は、アンジュちゃんなの? それとも、杏奈ちゃん?」
アンジュ「…さあね。教えてあげない」
悠麻「えーーー」
アンジュ「…ねぇ。悠麻くんは、私のために死んでくれないの?」
悠麻「やーだよ」
アンジュ「…あっそ」
悠麻「あ。杏奈ちゃんが取り殺してくれるなら興味はある」
アンジュ「それは無理」
悠麻「無理かぁ」
アンジュ「ま。悠麻くんの死に際は、私が見届けてあげるよ」
悠麻「それって…プロポーズ?」
アンジュ「今死にたいの?」
悠麻「冗談だってぇ」
アンジュ「…全く」
悠麻「…なんで死んじゃったんだろうなぁ、二人とも」
アンジュ「世の中にはね、知らない方がいいこともあるのよ」
悠麻「…そっか」