レトロ
戌亥あやかし心霊所 第一話
これは開国をせず、世界大戦にも参加しなかった、現代日本if 【4:3:1】 戌亥♂: 夜刀♂: 虎太郎:不問: 狒々♀: 男♂: 息子♂: 和葉♀: 葉月♀: 【3:2:0】 戌亥♂: ☆夜刀/男♂: ▽虎太郎/和葉♀: ◆葉月/狒々♀: 息子♂:
配役
431
予想時間40 分
文字数8954 文字
登場人物
名前タップでセリフ抽出戌亥戌亥 永久(いぬい ながひさ)34歳。 戌亥あやかし心霊所の所長。愛煙家。184cm。くらい。 式神を使役している、ただの人間。
夜刀夜刀(やと) 男性の姿の式神。 人間でいうところの20代後半、178cm。くらい。 夜刀神《やとのかみ》という蛇の妖怪。
虎太郎虎太郎(こたろう) 小柄な少年の姿の式神。 人間でいうところの10代中盤、160cm。くらい。 水虎《すいこ》という河童の妖怪。 ※男性が演じる場合、少年の声を出せる方のみでお願いします。
狒々狒々(ひひ) 大柄な女性の姿の式神。 人間でいうところの30代前半、199cm。くらい。 狒々《ひひ》という猿の妖怪。 辰砂《しんしゃ》という日本画で使われる赤を紅として愛用している。 毒なので人間のみなさんは真似しないでください。
男男 47歳 親。息子が自分より先に自死したことを悔いている。
息子息子 23歳(五年前) 子。五年前に自死した、男の息子。 物語の中で、化け物として戌亥《いぬい》たちの前に現れる。
和葉和葉(かずは)17歳(五年前) 姉。五年前に息子と共に自死した娘。 物語の中で「童謡・ふるさと」を歌います。
葉月葉月(はづき)17歳(五年前) 妹。和葉の双子の妹。 物語の中で「童謡・朧月夜」を歌います。
本編
根本山
虎太郎:「(息を切らしながら)なぁんで山登りなんて、してるんですかねぇ俺たち!」
戌亥:「息が上がってるぞぉ、小僧のくせに体力がないなぁ」
虎太郎:「誰が小僧じゃ! 脳筋に言われたくないっつうの!」
戌亥:「つべこべ言わず足を動かせ。ほらほらぁ、まだ半分も登ってないぞぉ」
虎太郎:「ええ〜まだ半分?! 帰りてぇよぉ〜〜〜!! …んあ?(男に気付く)」
男:「…」
戌亥:「こんにちはぁ」
男:「…ふん」
虎太郎:「無視かよ。感じわるぅ」
夜刀:「失礼ですよ、虎太郎くん」
戌亥:「珍しいですねぇ、この山はハイキングなんて浮かれた道楽をする山ではないでしょうに」
男:「…おたくらこそ、こんな山に何しに来たって言うんだ」
戌亥:「呼ばれたんですよ、ある人にね」
男:「呼ばれた?」
戌亥:「おおっと失礼、これは失言! 聞かなかったことにしてください」
男:「…ふん」
戌亥:「貴方はどちらへ行かれるんです?」
男:「…墓参りだよ、息子のな」
一拍
男:「おたくらはなんなんだ? ここらじゃ見ない顔だが」
戌亥:「おっと失礼、こういう者です」
戌亥、名刺を一枚差し出す。
男:「いぬい、あやかし、しんりょうじょ、所長?
男:診療所、って、アンタ医者か?」
戌亥:「いいえ、その診療ではなく。
戌亥:心霊…霊や妖などの困りごとを解決する、まぁ探偵のようなモノと思って頂いて構いません」
男:「探偵、ねぇ…
男:さっき言ってた「呼ばれた」ってやつが関係してんのか?」
戌亥:「詳しくは言えませんがね。守秘義務ってやつです。すみません」
男:「探偵ってのは、ガキをも使うのか?」
虎太郎:「が、ガキぃ?!」
夜刀:「虎太郎くん、どうどう」
男:「この山には鬼が出る。ボウズも食われちまうぞ」
虎太郎:「おいじじい! さっきからガキだのボウズだの無礼な口を利きやがって!
虎太郎:こう見えて俺はっ(夜刀に口を押さえられる)んっ! ん〜〜〜っ!!」
夜刀:「どうどう」
戌亥:「鬼が出る、なんて、与太でしょう?」
男:「この山では人が消える。
男:鬼の仕業だと言うやつもいるし、神隠しだと言うやつもいる。
男:この辺りに住む人間ならみぃんな知ってるさ。
男:日が暮れてこの山に入るやつなぞおらん。
男:特に、女子供はな」
戌亥:「獣害の可能性は?」
男:「骨一本も見つからん。獣ならなにかしらの痕跡を残すはずだ」
戌亥:「それじゃあ人攫い、とか」
男:「こんな辺鄙な山にわざわざ来るバカはおらんだろう。
男:道も獣道だ、車は入れない」
戌亥:「ふむ。益々、変ですねぇ」
男:「これは与太でもなんでもねぇ、実際に起きてる事実だ」
戌亥:「あぁ、変と言ったのはそちらではなくて」
男:「…あ?」
戌亥:「なぜそんな山に、息子さんの墓があるんです?」
一拍
男:「人が消えるようになったのはここ数年だからな。何もおかしい事じゃない」
戌亥:「へぇ…」
虎太郎:「(嫌味っぽく)じいさんこそ食われちまうんじゃねぇのか?
虎太郎:この山に出る、鬼ってやつに」
男:「(独り言のように)…食ってくれるなら願ったりだ」
虎太郎:「…えぇ?」
男:「で? おたくらはどこまで登るんだ」
戌亥:「もちろん、頂上まで。そこにあるんでしょう? 息子さんの墓は」
男:「…お前たち、何を調べてる?」
戌亥:「さぁて、なんでしょう」
根本山の頂上・崖の手前
戌亥:「いい景色ですねぇ」
虎太郎:「すっげーーー!」
男:「ボウズ、あんまりはしゃぐなよ。その先は崖だ」
虎太郎:「んえっ?! あ、あっぶねぇ~~~!!」
戌亥:「…これが、息子さんのお墓ですか」
男:「あぁ」
戌亥:「手を合わせても?」
男:「…あぁ」
戌亥、夜刀、虎太郎、墓の前に来て手を合わせる。
戌亥:「なぜ、この場所に墓を建てたんです?」
男:「いい場所だろう。あいつの好きだった場所だ」
虎太郎:「なぁ。なんで死んだんだ?」
男:「…飛び降りたんだよ。そこの先からな」
一拍
男:「ここから飛び降りるやつは、今までも何人かいた。
男:この高さから飛び降りりゃ、確実に死ねるからな」
戌亥:「息子さんは、何故飛び降りたんです?」
男:「…さぁな」
戌亥:「何かに悩んでいた、とか」
男:「悩み、か…」
戌亥:「えぇ、思い当たる節はなかったんですか?」
男:「…俺と息子は二人暮らしでな。あいつの母親は、あいつを産んですぐに死んじまった。何かと不自由な暮らしだったが不満を口にすることは終ぞなかった。
男:自分よりも他人を優先するような、俺には勿体ない息子だった」
戌亥:「山には何しに来ていたんです?」
男:「…恋をした、と言っていた」
根本山の頂上・崖の手前(五年前)
葉月:「菜の花畠に 入り日薄れ
葉月:見わたす山の端 霞ふかし
葉月:春風そよふく 空を見れば
葉月:夕月かかりて におい淡し(童謡・朧月夜、より)」
息子:「…」
葉月:「っ、」
葉月、息子に気付いて逃げようとする。
息子:「待って!」
葉月:「…」
息子:「すまない、歌声が聞こえたから、それで」
葉月:「…」
息子:「…その声が美しくて、立ち止まって聞いてしまったんだ。
息子:驚かせてしまってすまない」
葉月:「…ううん。びっくりしちゃってごめんなさい」
息子:「きみは…まさか天女様、とかじゃないよね?」
葉月:「ふふっ。そんなわけないじゃない」
息子:「名前を聞いてもいい?」
葉月:「…葉月。私の名前は、葉月よ」
ある山の頂上・崖の手前(現在に戻る)
虎太郎:「恋ぃ?」
男:「息子は女と一緒に飛び降りたみたいでな。
男:言ってくれりゃあ結婚だってなんだって、一緒に喜んでやりたかった」
一拍
男:「お前たち、わざわざこんな話をしに、山に来たわけじゃあないんだろう?
男:何が知りたい。なぜここに来た」
戌亥:「この山で原因不明の失踪事件が起きている、と」
男:「それを解決しに来たっていうのか?」
戌亥:「解決できるかは分かりませんが。
戌亥:まずは貴方の知っていることをお聞きしたい」
男:「さっき話したので全部だよ」
戌亥:「ふむ。いつごろから、人が消えるようになったんです?」
男:「そうさなぁ。およそ五年前、かな」
戌亥:「息子さんが亡くなったのは?」
男、失踪事件の黒幕が息子であると言われているようで苛立つ。
男:「…それも五年前。
男:それがなんだってんだ? この件に息子が関わっているとでも言いたいのか?
男:息子は死んだんだよ。五年前にな」
戌亥:「そうですね。ですが息子さんは、まだここにいます」
葉月:N「次の瞬間、獣のような声が辺りに響く」
息子:『ウヴァァァァァァァァァァーーー!!』
男:「な、なんだ?! この…こえ? 声なのか?!」
戌亥:「夜刀」
夜刀:「森羅万象の王よ、我が声を聴き、我に力を与え給え」
夜刀:「地よ、南東の底より湧き出し、一時我らを守り給え」
辺りからうっすら和太鼓と読経のような音が流れる。
葉月:N「ガサガサと木々の間をすり抜け出てきたのは、三メートルはありそうな大きな化け物だった。人でも獣でもないソレは、背を丸め二本の足で立ち、威嚇の声を上げる」
息子:『ウヴァァァ! 何だ貴様らはぁ!』
戌亥:「ただ恋をして、ただ心中した男が成るようなモノじゃあないんだよなぁ」
男:「これが…これが俺の息子、だっていうのか?!」
戌亥:「人間だったころとは姿形は変わっているでしょうが。
戌亥:人にも獣にもなれない、化け物とはまさにこういうものを言うんでしょうね」
男:「し、信じられん…!」
戌亥:「人が死んだらみなこうなる、という訳ではないんです。
戌亥:こうなってしまった因果が、あるはずなんですよ」
夜刀:「風よ、北西の頂よりその姿現し、対象を捕えよ」
葉月:N「ぴゅう、と風が吹くと、目に見えない何かが化け物を拘束する」
息子:『ウグゥ! 何だこれは! …フンッ!!』
夜刀:「この程度じゃ捕えられぬ、か」
戌亥:「厄介だな」
男:「な、なにがどうなっている!」
戌亥:「知っていることはすべて話してください。
戌亥:でないと貴方も俺たちも、ここで死ぬことになる」
男:「知って、いること… 息子は… 俺の、息子は…」
息子:『おやぁ? そこに御座すのは、父上様ではありませぬか!』
男:「む、息子は…」
息子、男に取り入るように。
息子:『父上様。私はいい息子、でしたでしょう?』
男:「くっ…」
戌亥:「絆されるな、よく見ろ! アレがお前の愛した息子か?!」
息子:『父上様ぁ!』
男:「…息子は、人を殺していた…
男:だがもう息子は死んだんだ! 今更、裁かれることではないだろう?!」
息子:『くっくっく! さすが父上様! 気付いていらっしゃったとは!』
戌亥:「人を殺しただけか?」
男:「何人殺したかなんて知らん、数年に一度! それだけだ!
男:俺たちは貧しかった! 手を貸そうとする人間なんて誰一人もいなかった!
男:それなのに息子は、困っている人間を見放すことなどしなかった…
男:いい人間だったんだ!
男:それくらい… 誰だってあるだろう、それくらいのこと!!」
息子:『そうだ、俺はいい人間だった。困ってるやつは助けてやった。
息子:みんな。みんなだ。分け隔てなく。
息子:俺たち親子を馬鹿にした奴でさえも、困っていれば力を貸してやった!』
戌亥:「だから人殺しくらい目を瞑れって? そんな奴が何故、自ら命を絶った?」
息子:『俺が、自ら命を…?』
虎太郎:「女と一緒に飛び降りたんだろ? そこの崖からさ」
戌亥:「人殺しを是とするやつが、一体何があって心中することになった?
戌亥:将来を悲観した、なんてタマじゃあないだろう?」
息子:『俺はぁ! あの女にハメられたんだぁっ!』
戌亥:「女? お前が恋をした、っていう女か?」
息子:『そうだっ! あの女のせいで!
息子:俺はこんなシケた山に縛り付けられているっ!!』
根本山の頂上・崖の手前(夕)(五年前)
息子:「葉月? 何故泣いているんだ」
葉月:「…怖いの」
息子:「怖い? 何が怖い?」
葉月:「あなたと出会ってから今日まで、ずっと嬉しいことばかり。それが、怖い」
息子:「俺にできることならなんだって叶えてやる。二人で幸せになろう」
葉月、「二人」という言葉に引っかかる。
葉月:「…二人で…そうね… 今まで、辛抱ばかりだったもの」
息子:「俺がお前を幸せにする。信じて着いてきてくれるか?」
葉月:「…はい」
根本山の頂上・崖の手前(現在に戻る)
息子:『山の近くにある町に住む女。家は知らん。
息子:いつもここで会っていたからな。
息子:そこの崖の手前で、歌を歌うのが好きな女だった。
息子:いい女だったよ。俺のものにしたいと思った。
息子:自分で言うのもなんだが俺は、人の信用を買うのが得意でなぁ』
戌亥:「それで恋仲になったと?」
男:「なぜ打ち明けてくれなかった!
男:お前が愛した娘と一緒になりたいと言ってくれたら、俺はなんだって…!」
息子:『いいやぁ。結婚なぞ、考えなかったなぁ』
男:「じゃあ、なぜ…」
息子:『喰いたかったんだ。ずっと。ずぅっと』
男:「な…」
戌亥:「…その女はどうした」
息子:『くっくっく。喰ったよ。美味かったなぁ。
息子:あの女の肉は、今まで喰ったどんな肉より美味かった』
虎太郎:「うげぇ、本当に人間だったのかよ、こいつ!」
息子:『それで? お前たちは俺を退治しに来た、ってぇわけか?』
戌亥:「まぁ厳密には違うが、やろうとしてることはそうだ」
息子:『どういう訳か、俺はこの山から出られない。
息子:これじゃあ山に入ってきた人間しか喰えない。
息子:それも最近じゃあめっきり人が来なくなった。
息子:クソが… クソがクソがクソがっ!!
息子:…けど、お前らはなぁんか普通の人間と違うみたいだなぁ?
息子:お前たちを喰ったら、山から下りれるようになるかなぁ?』
虎太郎:「な、」
息子:『まず、一人ぃ』
葉月:N「腕を伸ばして、男を鷲掴みにする」
男:「ぐぅっ!」
虎太郎:「おっちゃん!」
男:「…いいんだ」
虎太郎:「はぁ!?」
男:「いいんだよ、これで。
男:息子が死んで五年。…五年もの間、毎日悔いた。
男:悔いて涙を流して。それでも五年、生き続けてしまった。
男:俺は、自分から死ぬこともできない臆病者だ。
男:…息子に喰われるなら、(願ったりだ」
息子:『アーン、ゴクンッ! あぁ、不味い。 不味いなぁ、父上様よぉ…』
虎太郎:「お前っ…!」
息子:『いくら喰っても俺の腹は満たされない… お前たちなら、満たしてくれるかなぁ?』
夜刀:「雷よ、西の空より地に突き刺し、対象を撃てッ」
息子:『ぐぁぁぁぁ!!』
虎太郎:「効いたかっ?!」
夜刀:「…いや」
息子:『面白い… 面白いぞぉ! ビリビリと痺れる!
息子:もっとだ、もっと撃ってこい!!』
虎太郎:「こいつ、なんでこんなに堅ーんだよぉ!」
戌亥:「この場所のせいだろうな。
戌亥:無念を抱えたまま命を投げうった人間たちと、よほど相性が良かったんだろう」
虎太郎:「めんどくせぇなぁ!」
息子:『がぁっはっはっはっはっはぁ!!』
虎太郎:「でもよぉ、あいつ女と心中したんじゃなかったのか?」
夜刀:「だがこいつは喰った、と言った」
息子:『あぁ、喰った! 間違いなく喰った。
息子:それなのにあいつ… 蘇ってくるなんて、あいつこそ化け物だ…!!』
戌亥:「蘇った?」
息子:『そうだ。だからもう一度喰ってやろうと思った。
息子:今度はもっと美味いに違いないと思ったね。
息子:蘇るなんて、普通じゃ考えられぬことだからなぁ。
息子:…なのに!! アイツぅぅ!!』
根本山の頂上・崖の手前(五年前)
息子:「お前… 葉月…? なんで、お前がここに…」
和葉:「葉月がどこに行ったか、知っているの?」
息子:「いるはずがない… だってお前は… 殺したはずだ!
息子:何日もかけて、喰ったはずだぁぁ!!」
和葉:「あなた… 葉月を殺したの…? なぜ!」
息子:「…なぜ? くっくっくっくっく! 愛してるからだ!!」
和葉:「…許さない」
息子:「許さないからなんだ! お前に何ができる?! 何度でも、喰ってやるよぉ!!」
和葉:「お前だけは、絶対許さない…! 私と一緒に、ここから落ちるのよ!」
息子:「なっ、ぐぅ、(揉み合う) う、うわぁぁぁぁ!!」
根本山の頂上・崖の手前(現在に戻る)
息子:『…まぁ、なんだっていいさ。
息子:お前たちはみぃんな、俺の腹に収まるんだからなぁ!
息子:フンッ!(夜刀を捕まえる)』
虎太郎:「夜刀っ!」
息子:『お前じゃ俺を止められないようだからなぁ! いただきまぁ、』
夜刀:「それでいいんだよ。こっちが本命だからな」
息子:『うぐぅっ! な、なんだ! 体が…動かない…!!』
夜刀:「俺の両目をこの距離で見て、止められない奴はいない」
息子:『ぐぅぅぅぅぅぅ!!』
戌亥:「諦めろ。これで終わりだ。虎太郎!」
虎太郎:「行くぜ行くぜぇ~!!」
虎太郎、息子の体を駆け上って首裏に回る。
息子:『うぐっ、ウガァァァァァ!!(威嚇することしかできない)』
虎太郎:「食らえっ、血炎蒸裂!!」
息子、体内の血を蒸発させる温度で内側から熱を放たれ身体中の肉が裂ける。
息子:『ぐ、ぐぁぁぁぁぁぁ!!』
一拍
息子:『ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ…』
戌亥:「お前をこの山に縛り付けているのは、お前と同調した魂たちの宿縁だよ。
戌亥:結局何をしたって、お前はこの山から離れられることはない。残念だったな」
息子:『ぐ、ぐぅ…!』
戌亥:「上に逝きたいか? 俺は優しいからな。救える魂は救ってやるさ」
息子:『誰がお前になんかに、頼m』
夜刀:「(息子の首を切る)流刃」
葉月:N「化け物の首がごろり、と地に落ちる」
夜刀:「…戌亥、変な情けをかけるな」
戌亥:「…ふぅぅぅぅ(タバコの煙を深く吐く)」
姉妹の家(五年前)
葉月:「私の家は貧しかった。
葉月:なにもかもが足りなかった。
葉月:歌は、好きだった。お金がかからないから。
葉月:お腹は膨れないけど
葉月:それでも歌った。気を紛らわせるために。
葉月:たくさん歌った。歌うことしか、できないから」
葉月:「なんでも分けた。
葉月:ご飯も分けた。
葉月:一人分なんて与えらた事はなかった。
葉月:楽しい事も、嬉しいことも。
葉月:なんでもかんでも、半分こ。
葉月:けれど「恋」は、半分にできなかった」
葉月:「姉さん! 昨日あの人と会ったでしょう?!
葉月:勝手に会わないでって言ったじゃない!」
和葉:「私から会いに行ったわけじゃないわ! たまたま会ってしまったの!」
葉月:「言い訳しないで! …渡さない、彼と一緒になるのは私よ! 幸せになるのは私なの! …私が憎い? 私が恨めしい? それでも、幸せになるのは私ッ」
和葉:「(葉月の頬を打つ)」
葉月:「ッ!」
和葉:「待ちなさい! 葉月っ!」
根本山の頂上・崖の手前(現在に戻る)
戌亥:「唯一の家族である妹、その妹を殺した男と一緒の墓に入れられるってのは、どんな気持ちなんだろうなぁ」
虎太郎:「殺したいくらい嫌だ、つっても、もう死んでるんだもんな。その男も」
戌亥:「…これで二人とも、成仏できるだろうさ」
虎太郎:「…あれ? 結局依頼人って、姉の和葉さんだった、ってわけ?」
戌亥:「そうだよ」
虎太郎:「ええ! それじゃあ、報酬貰えないじゃん!」
戌亥:「大丈夫、もう貰ったよ」
虎太郎:「へ?」
戌亥:「ふ(口元が緩む)」
虎太郎:「…どう言うこと?」
夜刀:「さぁ?」
戌亥:「さぁて、そろそろ帰るとしますかねぇ」
虎太郎:「なぁ、戌亥! どう言うことだって! 金はぁ?!」
戌亥:「しつこいな〜。しつこい男は嫌われるぞぉ?」
夜刀:「行きましょう、虎太郎くん。日が暮れてしまいます」
一拍
虎太郎:「えええ〜〜〜?!」
根本山の頂上・崖の手前(現在?)
和葉:「兎追いしかの山 小鮒釣りしかの川
和葉:夢は今もめぐりて 忘れがたき故郷(童謡・ふるさと、より)」
和葉、故郷と葉月を想い涙がこぼれる。
葉月:「これでやっと、あの世に行ける」
和葉:「ごめんね、葉月」
葉月:「ううん、私こそ。ごめんね、お姉ちゃん」
戌亥あやかし心霊所、事務所内(夜)
狒々:「戌亥ィ! どこに行ってたのさァ〜!
狒々:なんでボクも連れていってくれなかったんだァい?」
戌亥:「狒々! 覆い、被さるなっ! 重い!」
狒々:「重いだなんて、女性に向かって失礼だよォ?」
戌亥:「バカなことを言うな、ニメートルを超えた大女なんて女扱いされると思うなよ!」
狒々:「残念、199だも〜ん♡」
戌亥:「その足元のはなんだ」
狒々:「あぁ、10cmのヒール♡ かわいいでしょう?」
戌亥:「そのか細い棒にお前さんの全体重が乗っかってると思うと、俺ァ可哀想でならないね」
狒々:「やァだ、ほんっと失礼しちゃう!」
狒々、戌亥の肩を思い切り叩く。
虎太郎:「戌亥ぃ、これどこに置けば…ゲェ!」
狒々:「やァん、小虎ちゃ〜ん、おかえりィ! ん〜、ぎゅー♡」
虎太郎:「やぁめろ!」
狒々:「恥ずかしがっちゃってェ〜! んーちゅ♡」
虎太郎:「うわぁやめろって!」
戌亥:「間違っても人間にはしないでくれよぉ。お前のソレは、毒なんだからな」
狒々:「分かってるよォ。でもいい色なんだァ、ボクこの色だァいすき♡」
虎太郎:「俺だって痒くなるっつうの!」
狒々:「んっふふー、小虎ちゃんは辰砂じゃ死なないものねェ」
夜刀:「邪魔だ、クソ猿」
狒々:「あらァ、いたの? クソ蛇」
夜刀:「お前の出番はなかった。それはこれから先も、だ」
狒々:「それを決めるのは戌亥よ? アナタじゃない」
夜刀:「(狒々を睨む)」
狒々:「(笑みを崩さない)」
戌亥:「お前ら頼むから、仲良くしろよぉ」
夜刀:「ふん」
狒々:「ボクは嫌いじゃないよぉ、蛇ちゃァん♡」
夜刀:「触るな死ね」
狒々:「やァだ、冷たァ~い」
虎太郎:「ううううるさぁい!! 俺を挟んでやるなぁ!!」
戌亥あやかし心霊所、裏手の喫煙スペース(夜)
戌亥:「ふぅぅぅぅ…(タバコの煙を深く吐く)。これで二つ目、だな」
夜刀:「戌亥」
戌亥:「…夜刀か」
夜刀:「なんであんな奴を仲間にした。俺たちだけで十分だ」
戌亥:「そう邪険にするな。仲間は多い方がいい、だろ?」
夜刀:「信用できん」
戌亥:「背中を預けろなんて言わないさ。ただしばらくは辛抱してくれ」
夜刀:「…(溜息をつく)」
一拍
戌亥:「これも親父のためだ」
和葉:「戌亥あやかし心霊所、第一話 完」