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死神と走馬灯
単発作品
仕事をさぼりがちな死神デュードは、最後の任務として「三日後に死ぬ少年モル」を担当することになる。最初は乗り気でなかったものの、過酷な環境で生きてきたモルが「死ねることを喜んでいる」と知り、デュードは彼に情を抱く。 デュードは残された三日間、モルに普通の幸せを体験させようと、服を買い与え、美味しいものを食べさせ、海へ連れて行くなど、かけがえのない時間を過ごす。しかしその行動は死神としての規律に反しており、上司スーから厳しく監視・警告されていた。
配役
00-3
予想時間20 分
文字数7118 文字
登場人物
名前タップでセリフ抽出デュード死神見習い
スー試験官
モル最終試験の対象の少年
本編
デュード:あぁ、働きたくねぇ。空はこんなに青いし風はこんなに穏やか。別に俺働かなくてよくね?別に人一人死ななくても変わらないでしょ。
手帳を開いて予定者リストを見る
デュード:しかも、あいつと年端も変わらない子どもだろ?もっと未来ある若者は生きた方がいい!
デュード:俺は仕事をやらなくてよくてハッピー、この子は長く生きられてハッピー。ウィンウィンじゃん。…いって。なにするんですか。
スー:馬鹿なこと言ってないで働きなさい。仕事のできない死神はどうなるかわかっているでしょう。
デュード:わかってますよぉ。言ってみただけじゃないですか。
スー:お前はすぐさぼろうとしますからね。
デュード:先輩だってさぼりたくなる時くらいあるでしょ?
スー:ありません。
デュード:嘘だ、そんなやつこの世界どこ探したっていないですよ。
スー:まじめにやりなさい。これは死神として存在できるかどうかの最後の機会なんですよ。
デュード:わかってますって。
スー:また、アレに逆戻りしたいんですか。
デュード:わかってますって。…じゃ、ちょっくら行ってきますか。
裏路地
デュード:とはいえまじで気が向かねぇ。なんで最後の対象がこんな子どもなんだよ。このままさぼったら…ばれるよなぁ。
正面から走ってきた子どもとぶつかる
デュード:おい大丈夫?立てるか?
モル:ごめんなさい、よそ見してて。
デュード:いいよ、気にすんな。って、ぁ…なぁ、俺ら前に一度どこかで会ったことあるか?
モル:…?
デュード:そんなわけないか。…お前名前は?
モル:え、えっと…モル。
デュード:あのさ、いきなりこんなこと言われても驚くだろうけど俺死神。お前三日以内に死ぬよ。
モル:死神…?本物?
デュード:そういってんじゃん。
モル:死神っておっきな鎌持って真っ黒なローブ着てるんでしょ?
デュード:あんな古臭い服は時代遅れ。今はもっとスタイリッシュなの。ま、知らんけど。
モル:そうなんだ。やっとお迎えが来たんだ。
デュード:やっと?なんだよ、お前驚いたり悲しんだりしないのか?今までの人間はみんな泣きわめいたり怒鳴ったりしてきたのに。
モル:だって、これで寒くて震えることも、お腹がすいて寝られないこともないんだよ。ずっと早く死にたいって思ってた。だからすごくうれしい。
デュード:…。
モル:死神様は僕を迎えに来てくれたんだよね?
デュード:あ、あぁ。
モル:そっか、うれしい。ありがとう。
デュード:…。なぁ、
住宅街 塔のてっぺんの屋根の上
スー:デュード。どういうつもりですか。
デュード:どういうつもりってなにがっすか?
スー:(溜息)
デュード:俺、思うんです。せめて召されるまでの三日間、楽しい思い出作ってやりたいって。
スー:不要な感情を持つな。いちいち情を持っていたら仕事になりません。
デュード:先輩はないんですか、一度も?
スー:…ないですね。
デュード:ほんとは?
スー:正直な話をすると一度だけある。
デュード:え?
スー:一度だけ対象者に同情してしまいわがままを通してしまったことがある。
デュード:なんだ、先輩って意外と血が通ってるんですね。
スー:その結果、対象者を苦しめてしまったのかもしれない。そんな後悔をずっと抱えている。
スー:そしてその時に学びました。私たちに憐みの感情なんて必要ない。粛々と仕事をするのみです。
観察日誌
スー:経過観察報告書:第1日目 対象:デュード
スー:観察内容:対象への接触を確認。生前の記憶が影響している可能性があり、対象に対する同情的行動が顕著に認められる。
スー:行動確認:本日、対象を自宅へ連れ帰り、入浴行為を確認。
スー:総合評価:現時点において特段の異常は認められない。今後も対象の行動を継続的に監視し、変化を詳細に記録すること。
ブティック内
モル:ぼ、僕場違いじゃないかな…?
デュード:もっと堂々としてろって。ぁ、なぁ、こんな服とかどう?
モル:僕、服のことなんかわからないよ。お金も持ってないし…
デュード:ガキがそんなこと気にすんな。お、これとかよさげ。ちょっと試着してみなよ、すいません。
モル:え。
デュード:えっと、これとこれとこれ、あ、あとこれも試着で。…なにしてんだよ、早く行って来いって。
モル:う、うん。
デュード:おい、着られたか?
モル:う、うん。ちょっと待って。…どうかな?
デュード:お、いいじゃん。店員さん、これこのまま着ていくからお会計お願い。
モル:え。
デュード:なに驚いてんの?ほら、行くよ。
モル:ま、待って!
公園
デュード:お、クレープあんじゃん、食べたことある?
モル:ない…
デュード:そっか、なら食ってみるか。好きなもの頼みな、ほらこれなんかでっかいアイス乗ってる。
モル:わぁ…
デュード:これにするか、あっちで座って待ってな。…すみません!
モル、クレープにかじりついている
デュード:どうだ、うまいか?
モル:うん、こんなおいしいの初めて食べた。
デュード:それはよかった。
モル:ねぇ、デュードはどうしてこんなに良くしてくれるの?
デュード:ん?
モル:他の死神も死ぬ前にたくさん優しくしてくれるの?
デュード:死ぬ前にいい思いさせて魂を持っていくのは悪魔のやること。だってそうすれば、死にたくなくなるでしょ?そこからかすめ取ってくのが悪魔。
モル:そうなんだ。でもデュードは死神でしょ、どうして?
デュード:先輩にもそれでこの間怒られたんだけどさ、モル見てるとなんかほっとけないんだよね。
モル:どうして?
デュード:なぁ、死神ってどうやって発生するか知ってる?
モル:ううん。
デュード:死神は自殺した人間の魂が生まれ変わることもできず長い年月でどろどろに腐って黒い塊になって、そこから生まれるんだよね。
モル:…。
デュード:で、死神として気の狂うような長い時間いろんな人間の死と向き合ってくの。それが自分の生と死に向き合うことを諦めた俺らの贖罪なわけ。
モル:…。
デュード:モルくらいの年齢の弟がいたはずなんだよね、俺。
モル:いた、はず?
デュード:そ、記憶があいまいでさ。顔も思い出せないの。なのに覚えているのが、ずっと我慢して過ごさせてたなってことと強がって笑うところとか我慢しようとするところ。
デュード:初めて会ったとき、やっと死ねるって笑っただろ。なんか顔も覚えてないのにどうしようもなく苦しくなってさ。
デュード:だからってわけでもないけど、死ぬまではなんでも願いを叶えてやる。…湿っぽい話しちゃったな、らしくない。次は何処行く?
夜 裏路地
スー:デュード、さすがに度が過ぎている。
デュード:わかってますよ。
スー:対象者へ我々の話をすること自体タブーなんですよ。
デュード:わかってます、すみませんでした。
スー:お前が生前弟に対して強い罪悪感を抱いて死んだことはこちらでも把握はしています。ですが、
デュード:わかってますよ、深入りしすぎだって自覚もあります。でも
スー:でも、ではありません。我々は私情を挟まずにただ淡々と職務を全うしなくてはならない。できるんですか、対象者の回収が。
デュード:やりますよ、もちろんじゃないっすか。
スー:失敗すればアレに逆戻りです、そのことを十分肝に命じておきなさい。
デュード:…うっす。
観察日誌
スー:経過観察報告書:第2日目
スー:対象:デュード
スー:観察内容:
スー:対象への接触を継続。衣服を購入し、その後クレープを共に摂取。
スー:対象に対して、死神の成り立ちおよび生前の記憶に関する情報を伝達。
スー:行動確認:デュードに注意喚起を実施するも、現時点では行動に顕著な変化は見られず。
スー:総合評価:対象は引き続き行動の監視が必要。今後も接触状況および反応を詳細に記録し、変化の有無を評価すること。
デュード:その日、夢を見た。酷く懐かしい夢だ。
モル:お兄ちゃん!
デュード:まだ人だったころの懐かしい夢。弟と身を寄せて必死に生きた時の夢。
デュード:寒くないか?
モル:大丈夫だよ、こうやってくっついてるとあったかいね。
デュード:弟が死んだときの記憶。
デュード:おい、しっかりしろよ、目を開けろよ、おい!おい!!!
デュード:死神として生き返ってしまったときの、記憶。
スー:意識はしっかりしていますね?あなたはこれから死神として職務を全うし己の生と死への贖罪を果たすのです。
デュード:死神…?贖罪?言っている意味がわからない。俺は死んだんだよな?
スー:えぇ、死にましたよ。自分で自分を殺した。
デュード:そうだ、俺死んで…
スー:そうです、どうしますか、今お前には二つの選択肢があります。一つは死神になることを選ぶ、もう一つはまたどろどろのぐちゃぐちゃの後悔に一生身を焼き続けるナニカに戻るか。
デュード:俺は…
スー:死神になれる者はそう多くありません、あなたはその数少ないチャンスを引き寄せたのです。
デュード:俺は…あいつがいない世界で生きる意味なんて…
スー:…あなたの弟はたしか自殺でしたね?
デュード:俺が頼りないから…
スー:確率としては低いですが死神としてまた出会える可能性もあるのでは?アレに戻るのであれば再会できる可能性は0になりますが。
デュード:え…?
スー:まぁ、選ぶも選ばないもあなた次第です。
デュード:…。
スー:そうですか、残念です。ではここで戻ってもらうしか
デュード:待って!…なるよ、死神に。そうすればもしかしたら会えるかもしれないんだろ?
スー:そうですね、確率は極端に低いですが。
デュード:それでもいい、また会えるなら。
スー:わかりました、それではこれからお前の名前は
デュードの家
デュード:っ…!!!はぁ、嫌な夢見た。朝か。…。
モル:…起きたの?
デュード:あ、わりぃ起こしたか?
モル:ううん、大丈夫。
デュード:そっか。今日はどこに行く?
モル:今日はね海に行ってみたい。
デュード:海?この時期はシーズンじゃないから行ってもなにもないぞ。
モル:それでも見てみたい、ずっと夢だったんだ。
デュード:…わかった、行くか海。
モル:ありがとうデュード!
デュード:よし、じゃあ準備するか!
モル:うん!
スー窓の外から二人を見ている
スー:残り5時間。
海 空気は冷えており人はいない
デュード:ほら、到着。どう?念願の海は。
モル:おっきいね。
デュード:そうだな。
モル:それにずっと向こうまで水が広がってる。
デュード:そうだな。
モル:ねぇ、あっちに見える陸はなんてところ?
デュード:あぁ、あれはアリシア大陸のほうだから…たぶんイアじゃない?
モル:あんな遠いところにも人が住んでるんだね。
デュード:なぁ、モル、これやる。
モル:なにこれ、きらきらしてきれい。宝物にするね!
デュード:そんなに喜んでもらえるなんて思わなかった。足元見てみろ、たくさん落ちてるぞ。
モル:え、わぁ本当だ!!…あ、これきれい!これも!
デュード:よし、どっちが一番きれいな貝殻拾えるか勝負しよう!
スー 貝殻を集める二人を遠くから見ている
スー:残り4時間と30分。
デュード:モル、腹減らないか?そろそろ昼ごはんにしよう。
モル:うん!
デュード:よし、手洗ってきな!
モル:わかった!
スー:デュード。
デュード:びっくりした。急に話しかけないでくださいよ先輩、死ぬかと思ったじゃないですか。
スー:わかっているだろう、もうすぐ時間だ。
デュード:わかってますよ。
スー:これで失敗すればお前はアレに戻ることになる。
デュード:わかってますよ。
スー:本当にできるのか?
デュード:だから、できるって言ってるじゃないすか!!
スー:あと3時間と15分以内に対象の魂を刈り取れ。
デュード:…はい。
スー:…。
モル:ただいま!
デュード:…。
いつのまにかスーの姿はない
モル:デュード?どうしたの?
デュード:あ、いやなんでもない。ちゃんときれいに洗えたか?
モル:うん!
デュード:そっか、よし食おう!
モル:うん!
デュード:ほら、落とすなよ。
モル:大丈夫だよ、うわぁ卵がたくさん。パンもふわふわ。こんなのはじめて。
デュード:うまいか?
モル:うん!
デュード:そっか、たくさんあるからな。いっぱい食べていいぞ。
スー:残り2時間45分。
デュード:ふぅ…
モル:おなかいっぱい!
デュード:だな!次は何する?
モル:うーん…
デュード:なら、城でも作ってみるか?
モル:お城!?作れるの!?
デュード:モル、このバケツに海水汲んできてくれるか?
モル:わかった!
デュード:(溜息)
脳裏にスーの言葉が反芻する
スー:あと3時間と15分以内に対象の魂を刈り取れ。
モル:汲んできた!
デュード:…お、ありがとな。これ砂にまいて。
モル:うん!
デュード:そしたらこれに砂入れて固めて。ひっくり返すと
モル:おお!
デュード:これを重ねていくんだ、手伝ってくれるか?
モル:わかった!
デュード:レンガの模様を入れて…よし、完成!
モル:わぁぁぁ、ほんとにお城ができた!
デュード:モルが手伝ってくれたおかげだな。
モル:こんなおうちに住んでみたかったな。
デュード:…、はは、こんな大きな家に住んだら掃除が大変そうだな。
モル:たしかに…っ
モル倒れる
デュード:は?おい、モル!モル、しっかりしろモル!!
スー:時間だ、刈り取れデュード。
デュード:…。
スー:デュード。
デュード:先輩、もしこのまま刈り取らなければ
スー:その場合お前はあの黒いどろどろとしたナニカに逆戻り、対象は私が刈り取ることになる。
デュード:そうっすよね…。
スー:できないのか?
デュード:できます…できますよ…
モル:…デュード?
デュード:…ッ
モル苦しそうに目を開ける
モル:時間なの?
デュード:…あぁ。
モル:そっかぁ、あのね、僕デュードと過ごしたこの三日間とっても楽しかったよ。
デュード:…。
モル:今まで僕のことみんな嫌ってたからさ、初めて人間扱いされた気がした。
モル:綺麗な服を買ってもらってお風呂に入れてもらって、おいしいご飯をたくさん食べさせてもらったし温かい布団で寝ることもできた。
モル:たった三日間だけだったけど今まで生きてきた中で一番楽しい時間だったよ。ありがとう、デュード。
長い間
デュード:できねぇよ、できねぇだろ。短い間だったけどモルは俺にとってもう一人の弟みたいなやつなんだ。だから…
モル:デュード?
スー:それがお前の答えでいいんですね。
デュード:あぁ。
スー:わかりました。
デュード:モル、ありがとうな俺もこの三日間すげー楽しかった。
モル:デュード?
デュード黒いドロドロのナニカに変わってしまう
スー:その瞬間、デュードの皮膚はひび割れ中から滲み出したドロドロとした液体がとめどなく溢れ出してくる。そうしていつのまにか、そこに人の影はなく代わりにひとつの黒いスライム状のナニカが落ちていた。
モル:お兄ちゃん。
スー:モル、三日間疲れ様でした。
モル:やっぱりお兄ちゃんは死んでもお兄ちゃんだね、僕の顔も覚えてないくせにさ。
スー:…。
モル:せっかくまた会えたのにこんな黒いぶよぶよのナニカにまた戻っちゃうんだもんな。
モル、ナニカを抱き上げる
モル:僕さえいなければお兄ちゃんの負担がなくなると思ってたんだ。まさかそのあと自殺しちゃうなんてね。
スー:テストは終了です、帰りましょうモル。
モル:うん。ねぇ、スー。
スー:なんですか。
モル:僕のお願い聞いてくれてありがとうね。
スー:あなたは苦しくはありませんか、こんな生き方を選ばされて。
モル:もしかしてずっと気にしてくれてたの?平気だよ、それに一生懸命お兄ちゃんを見つけ出してくれた。ありがとうね。
スー:ほら、行きますよ。
モル:もしかして照れてる?照れてるの?…あ、ちょっと!置いてかないでよ!待ってったら!
スー:最終日
スー:観察事項:対象を伴い海へ赴き、遊戯行為を確認。残余時間を告知したが、対象は明らかな渋りを示した。
スー:行動確認:対象の刈り取りは遂行不能。最終的に対象は「ナニカ」へと還元されたことを確認。
スー:所見:特筆すべき異常事象は発生せず。本件はこれをもって終了とする。