配役
110
予想時間60 分
文字数15137 文字
登場人物
名前タップでセリフ抽出妖狐狐の妖怪
九郎人間の男
本編
九郎:「俺は昔っから妖怪と言われる類いのものが視えた。そいつらは大概、地獄から這い出てきたような見てくれの悪い奴らで、人の魂を喰いたがる。
九郎:餓死、心中も珍しくねぇこの世の中じゃあ、そいつらもメシには困らねぇ。
九郎:子供ながらに、妖怪に喰われた魂はきっと輪廻できないのだろうと思った。」
九郎:「ある夜、一人家で寛いでいると、それまで騒がしい程鳴いていた虫の音がぴたりと止んだ。
九郎:静まり返った家の中。
九郎:ふいに遠くから、しゃらん、しゃらん、と大量の鈴の音が鳴り出して、それはだんだんと近づき、俺の家の前で止まった。」
妖狐:「夜分、失礼致します」
九郎:「こんな時間に一体誰……だ……って、おいおいおい、なんて気配だ…こりゃあ今までに視た妖怪共とは比べ物にならん程、格が違うぞ」
妖狐:「ふふふっ、褒め言葉と受け取っておきまする。中へ入ってもよろしいでしょうか」
九郎:「妖怪がなんの用だってんだ!関わると碌な事がねぇ、帰ってくんな!」
妖狐:「そう仰らないでくださいまし。貴方様に、話があって参りました」
九郎:「話だぁ?一体何の話があるってんだ!」
妖狐:「それは中でお話致します故、中へ入れてくださいな」
九郎:「そんな口車に乗るか!その用件とやら、軒先で話せばいいだろう!」
妖狐:「こんなところで話す内容ではございませぬ。どうか中へ入れてくださいまし」
九郎:「家に入れて喰われでもしたら堪ったもんじゃない!入れてなるものか!」
妖狐:「そう仰らず。ただ喰うだけなら、こんな面倒は致しませぬ」
九郎:「…本当に喰うつもりで来たんじゃねぇのか?」
妖狐:「左様にございまする」
九郎:「………それなら…話くらいは聞いてやる。
九郎:よし!今開けるから、待っていろ!」
妖狐:「ありがとうございます」
九郎:「よっ、と……へぇ、こりゃあ驚いた、えれぇ別嬪な妖怪だなぁ」
妖狐:「妖狐の胡白と申します」
九郎:「妖狐だぁ?化け狐の妖怪か?そんな大層な妖怪が、この俺に一体何の用だってんだ」
妖狐:「立ち話しで済む話ではございませぬ故、座して話しとうございます」
九郎:「ふん…なんだか調子が狂うな、まぁいい、適当にしてくれ」
妖狐:「ありがとうございます」
九郎:「さて、今度は茶を出せ、なんて言い出すんじゃあ、あるまいな?」
妖狐:「ふふっ、結構でございます。貴方様のお噂はかねがね…本日は貴方様に、婚儀を申し込みに参りました」
九郎:「婚儀だぁ?婚儀たぁ、夫婦の契りの事か?一体全体、誰の婚儀っだってんだ?」
妖狐:「わたくしと貴方様にございます」
九郎:「はぁ?!なんだって妖怪のアンタと人間の俺が結婚なんてしなくちゃならねぇ!?」
妖狐:「わたくしの家系は代々、人間の婿を取っております。それも、ただの人間ではなく、妖怪が視え、会話し、我らに触れる事のできる特別な力を持った方を、でございます」
九郎:「はっ!悪いが俺はまだ所帯を持つ気はねぇんだ。まして妖怪と婚儀を交わすなど…」
妖狐:「…まだ?ふふっ、可笑しな事を仰られる」
九郎:「何が可笑しい?」
妖狐:「貴方様程、力のあるお方が、人間の女と夫婦ともなれば、ご内儀はまともな生活も送れますまい」
九郎:「…それは…」
妖狐:「それほどにわたくしと夫婦になるのがお嫌でございますか?」
九郎:「あぁ、嫌だね。こちとら妖怪には散々な思いをさせられてきた。妖怪とつるむなんざまっぴら御免だ!」
妖狐:「随分とはっきり仰るのですね…傷付きますわ」
九郎:「はっ、傷付くだぁ?お前程の大妖怪がよく言った物だ」
妖狐:「あまり調子に乗らないでくださいまし」
九郎:「ふん……で、この話、断ったらどうなる?」
妖狐:「貴方様を喰らうまででございます。貴方様ほど力を持った人間は馳走でございますから」
九郎:「…」
妖狐:「それに、これは貴方様にも悪い話ではございませぬ」
九郎:「どういう事だ?」
妖狐:「妖狐を娶ったともなれば、下賤な妖怪共は貴方様にちょっかいを出す事も無くなりましょう」
九郎:「ほぅ、そりゃあ確かに有難ぇ話だな」
妖狐:「では…」
九郎:「勘違いすんな、まだ腹を括った訳じゃねぇ。聞きたい事が山程あるからな。特にオマエら化け狐は人を騙すことに関してはお手の物だ。喰われた方がマシだった、なんて事になるのは御免だからな」
妖狐:「ふふっ、疑り深いのですね。なんなりとお聞きくださいまし、貴方様が納得されるまでお答え致しましょう」
九郎:「オマエと夫婦になったら、今後の生活はどうなる?」
妖狐:「今まで通りで構いや致しませぬ。ですが夜半には貴方様の元へ姿を現しましょう」
九郎:「…先刻、下賤な妖怪共は手を出さなくなると言ったな?」
妖狐:「申しました」
九郎:「奴らは俺が妖狐を娶ったと、どう判断する?」
妖狐:「婚礼の儀が済みましたら、貴方様にわたくしの証が込められます。その気が貴方様から放たれるようになりますので、妖怪共は妖狐を娶ったのだと解ります」
九郎:「なるほど…」
妖狐:「我々一族は貴方様のような特別な力を持つ人間と夫婦となり、子を成す事で一族の血統を紡いで参りました」
九郎:「俺はオマエよりも早く死ぬ」
妖狐:「ええ、承知でございます。愛し、愛されなぞ求めてはございませぬ」
九郎:「子種としか見られていないって事かい」
妖狐:「ふふっ、情緒もなにもありませぬが、その通りでございます」
九郎:「ふぅ…仕方ねぇ、このまま喰われるのは御免だしな」
妖狐:「了承頂けるのですか?」
九郎:「ああ」
妖狐:「誠に、感謝致しまする。
妖狐:では早速、婚礼の儀に移らせて頂きます。
妖狐:貴方様には、これから風呂へ入り、身を清め、我々一族の婚礼の正装にございます、こちらの袴に着替えて頂きます。
妖狐:準備が出来ましたらこちらへ戻っておいでくださいまし」
九郎:「…分かった。では少し待っておれ」
妖狐:「ごゆるりと」
九郎:「………妖狐と婚儀たぁ、えらい事になったもんだ…だが、ただ喰われて終いってのもつまらねぇ。どうせ人間にも嫌気が差してた。こうなったのも俺の運命なのかも知れねえな…」
九郎:「さて、待たせたな」
妖狐:「構いませぬ。
妖狐:ではこれより婚礼の儀を執り行わせて頂きます。
妖狐:…こちらへお座りくださいまし」
九郎:「お、おう」
妖狐:「こちらに二杯の杯がございます。これを半分ほど飲んだのち、互いの杯を交換し、さらに飲み干してくださいまし」
九郎:「分かった」
妖狐:「では」
九郎:「(半分ほど飲む)」
妖狐:「杯の交換を…」
九郎:「ん、(残りを飲み干す)」
妖狐:「これで婚儀は交わされました」
九郎:「ふぅ。…杯の中身、こりゃあ一体なんだったんだ?」
妖狐:「我々の一族に代々伝わる製法で作られた酒にございます。互いにこの酒を飲むと、魂が結び合いやすく、子を成しやすくなります。
妖狐:これで、貴方様とわたくしは晴れて夫婦となったのです。
妖狐:旦那様、これからよろしくお願い申し上げます」
九郎:「…で、この後はどうする?」
妖狐:「どうする、とは?」
九郎:「婚儀は済んだ、他に何かするのか?」
妖狐:「いいえ、これで終いです。
妖狐:わたくしは、今宵、一度帰らせて頂きます故、旦那様もお休みになられてくださいまし。妖狐:その酒が身体中に染み渡る頃、我々妖怪と子を成す為の準備が整います」
九郎:「そうかい」
妖狐:「では、ごゆるりとおやすみくださいまし…」
九郎:「………なんと、姿を消しおった。そんな事もできるのか。
九郎:はぁ、まさか妖狐と婚儀とはなぁ…いやぁ、どっと疲れた。
九郎:そういえばこの袴、どうすりゃいいんだ?九郎:とりあえず畳んでおいて明日にでも考えるとするか。寝て起きたら夢だった、なんて事もあるかも知れねぇ…
九郎:っとと、杯一杯でやけに酔いが回りやがる…これは早々に床に着いた方が良さそうだ…」
九郎:「……ふぁ〜あ…もう昼かい…
九郎:頭が呆けていやがる…ん?あの袴は…という事は、夢じゃあなかったって事か…はは…
九郎:夜半まではいつも通り…ふむ、ちと町をブラつくか」
九郎:「………なんだい、妖怪共が遠巻きに見てらぁ。こりゃあいよいよ昨夜の出来事が現実だったってみてぇだ。
九郎:冷静になってみりゃあ、よくも妖怪と婚儀などできたものだ。
九郎:…しかし腹が減ったな…今日はまだ何も食っていない。もう日も落ちる事だし家に帰って何か食おう」
妖狐:「おかえりなさいませ、旦那様」
九郎:「うおっ!驚いたじゃねぇか!まだ夜半には早いぜ?!」
妖狐:「ふふっ、特別にございます。旦那様が夢かと疑っておられましたので」
九郎:「なんでそれを…」
妖狐:「杯を交わすと、心も読みやすくなるのですよ」
九郎:「なんでぇ、心が読めるなんて、そんな話は聞いてねぇぞ」
妖狐:「聞かれませんでしたから」
九郎:「さすがの大妖怪様だな…あぁ、そういえば昨夜の袴だが…」
妖狐:「こちらで片付けさせて頂きました」
九郎:「そうかい、俺は腹が減った。お前も一緒に食うかい?」
妖狐:「いいえ、わたくし共は米などは食いませぬ」
九郎:「そうだったな、じゃあ俺の分だけ失礼して…」
妖狐:「ふふっ、そんなにがっつかずとも、ゆっくりお食べくださいな」
九郎:「話す相手もなく、一人飯を食っていたらこうもなるさ」
妖狐:「旦那様、もう一人ではありませぬ。その事、お忘れなきよう…」
九郎:「あ?ああ…なんだ、今日は随分しおらしいじゃねぇか」
妖狐:「いつも凶暴な妖怪という訳ではございませぬ。特に、旦那様の前では」
九郎:「っ!変なやつだ!」
妖狐:「ふふふ」
九郎:「そういえばお前、胡白といったか」
妖狐:「ええ、覚えていてくださったのですね」
九郎:「妖怪が名乗る事は珍しいからな」
妖狐:「名前のある者が少ないのです」
九郎:「そうなのかい」
妖狐:「力があり、理性のある妖怪。そのような者が少ないのですよ」
九郎:「確かにお前のように会話のできる妖怪に会ったのは初めてだ」
妖狐:「会話ができるという事は理性があるという事。でなければ名前を付けて判別する必要もありませんから」
九郎:「なるほど、最もな話だ」
妖狐:「昨夜、下賤な妖怪共に手を出される事は無くなると申しましたが…」
九郎:「あぁ、先刻町を歩いてみたが、いつもと様子が変わっていた」
妖狐:「もし道理の通じぬ妖怪が来たとして、貴方様は我々がお守り致します故…旦那様には狐火を付け、常に様子を伺わさせて頂きまする」
九郎:「なぜそこまでする?」
妖狐:「妊娠中に貴方様が命を落とせば子は流れます」
九郎:「だから何かあれば助けに来ると」
妖狐:「左様です。貴方様にわたくしの証が有るうちは、他の者との婚儀も交わせませぬ。命ある限り、お供致します」
九郎:「そりゃあ、人間より一途で情深いものだ」
妖狐:「これは呪いのような物。人のソレとは異なれど、そう感じるのは人間の心の移り変わりの問題ではないかと」
九郎:「違いねぇな」
妖狐:「旦那様のご両親は?」
九郎:「さてね」
妖狐:「と、申しますと?」
九郎:「俺はガキの頃から妖怪が見えた。そんな事を話せば嫌な顔をする親だった。お前の育て方が悪いからだと父は母を責め、奇妙なことばかり言う俺を忌み嫌い、寺に捨てた」
妖狐:「そうだったのですね」
九郎:「俺はそこで食わせてもらった」
妖狐:「さぞお辛かったでしょう」
九郎:「妖怪など見える質でなければ、違う暮らしだったのかも知れねぇな」
妖狐:「…妖怪がお視えになる事、恨んでおりますか?」
九郎:「なぜ俺にだけと思う事は幾度もあった。妖怪など視えるばかりに親は俺を捨てたんだからな」
妖狐:「…」
九郎:「視えるモノを視えないと、嘘を吐くような器用さが無かった俺も悪かったのかも知れねぇが…」
妖狐:「幼子は素直なものです、嘘を吐く事も難しかったのでしょう」
九郎:「親が子を捨てるなんて、よくある事さ」
妖狐:「よくある事でも、あってはならぬ事です」
九郎:「…そうかもしんねぇな…なんだかこんなに話をしたのは久々だ」
妖狐:「お疲れになりましたか」
九郎:「いや、疲れたというより、少し心持ちが軽くなった。湿っぽい話を聞かせちまってすまねぇな」
妖狐:「いいえ、良いのです。夫婦なのですから」
九郎:「……不思議な話だがよ、今お前と話してる時間は、そう悪くねぇと思う」
妖狐:「それは何よりでございます」
九郎:「さて、俺はそろそろ床へ着く。お前はどうする」
妖狐:「お供させて頂きます」
九郎:「狭いが堪忍してくれな」
妖狐:「ふふ、構いや致しませぬ」
九郎:「ふぁ〜、よく寝た…」
妖狐:「おはようございます、旦那様」
九郎:「っ!なんでぇ、驚いた!」
妖狐:「ふふふ」
九郎:「てっきり朝には居なくなっているモンだと…」
妖狐:「寂しいことを仰られる」
九郎:「なんだ、まぁ…久方振りに会話らしい会話をした。それを楽しいと思うとは、俺も随分毒されたものだ」
妖狐:「人も妖怪も言葉を持ちながら、話す相手が居らぬというのは寂しき事です。旦那様は幼き頃から一人だったのですから、尚更の事…」
九郎:「胡白は何か話したい事はねぇのかい?」
妖狐:「そうですね…
妖狐:我が一族が、人間から婿を取るという話は以前申し上げたと思いますが」
九郎:「ああ、聞いた」
妖狐:「同じ魂の生まれ変わりの者を探して居るのです」
九郎:「魂の生まれ変わり?」
妖狐:「はい。我が一族の先祖は遥か昔、陰陽師により棲み家を追われました」
九郎:「棲み家を?なぜだ?」
妖狐:「棲み家としていた場所が、人間にとって都合の良い場所だったが故、近隣に棲まう妖怪ごと追い出され、後に寺が建てられました」
九郎:「そりゃあ難儀だったな…」
妖狐:「先祖は帰る場所を無くし、彷徨いました。その道中、夜刀神と遭遇致しました」
九郎:「夜刀神?」
妖狐:「はい。端的に申すと祟り神の類い…一目姿を見れば一族諸共、滅ぶとされています」
九郎:「ほぅ…」
妖狐:「本来ならば何の影響も無かったでしょうが、先祖は棲み家を追われ、彷徨い続け、体力も底を尽いて居りました。なんとか逃げ仰せたものの、力尽き、死を覚悟致しました」
九郎:「…」
妖狐:「その時、狐を祀り崇拝する、稲荷信仰の厚い人間に助けられたのです」
九郎:「助けられたって…」
妖狐:「とても弱っていましたから、ただの狐と姿形は変わらなかったのでしょう」
九郎:「なるほどねぇ」
妖狐:「看病を受け、次第に力を取り戻した先祖は人の姿に化け、その人間が亡くなるまで、尽くしたそうです」
九郎:「えらく丸く収まったモンだな」
妖狐:「ところが夜刀神の影響か、子を宿しても流れるようになりました」
九郎:「それで、どうなった?」
妖狐:「一族の血統を諦めかけた時、先刻お話した、先祖を救った人間の、魂の生まれ変わりの者と出会いました」
九郎:「なぜ生まれ変わりと分かる」
妖狐:「我々は鼻が利きます。魂から発せられる匂いで分かるのです。
妖狐:先祖は自身を救ってくれた者の魂の生まれ変わりの者を見つけ、懐かしさを覚えました。
妖狐:ならば命尽きるまで、その者に尽くそうと人に化け、世話をするうちに惹かれあい、子を成しました。
妖狐:……その、魂の生まれ変わりの者とであれば、子を成す事ができると分かり、今日まで我が一族を継ぐ者はみな、その魂の生まれ変わりの者と子を成し、存続してきました」
九郎:「しかし俺は神も仏も信じちゃいねぇ」
妖狐:「信仰のあるなしは関係ありませぬ。我々は人間よりも長く生きます。その間に魂の生まれ変わりの者を探し、一族の血統を紡ぐのです」
九郎:「大層な話だなぁ」
妖狐:「愉しんで頂けましたか?」
九郎:「愉しむも何も、俺との子が流れたら俺は喰われてしまうのではないかとヒヤヒヤしてるぜ」
妖狐:「そんな事は致しませぬ。我が一族は白狐。白い毛の狐は神の化身です。人を驚かすことはあっても襲う事なぞ致しませぬ。婚儀の際に脅しをかけた事、どうかお許しくださいませ…」
九郎:「…そうか…済んだ話だ、気にしちゃいねぇさ」
妖狐:「ありがとうございます」
九郎:「それで、お前も子を成すために俺の元に来たのかい」
妖狐:「はい。一族を継ぐ者はみな、血統を紡ぐことに必死なのです」
九郎:「そうかい…だがよ」
妖狐:「はい」
九郎:「そんな重たい荷物背負っていちゃあ、心がしんどくなるってもんだ。俺では役に立たんかもしれんが、寄りかかれる時には寄りかかってくれ」
妖狐:「…かような妖怪にそのようなお言葉…わたくしは心から嬉しく思います」
九郎:「ま、俺に何が出来るかって話だが」
妖狐:「気に掛けてくださっただけで充分でございます」
九郎:「そうかい。
九郎:さて、俺は今でも捨てられた寺に気が向いたら出向いて仕事をしている。そろそろ行ってこようと思う」
妖狐:「分かりました、お気を付けていってらっしゃいまし」
九郎:「はぁ、寺へ行ったのも久々だが、よくもまぁこき使いやがって…えらい疲れたぜ…しかし、こんなに体が重てぇのは、今までに無い事だ…」
妖狐:「旦那様」
九郎:「ひっ!!!なんだ、胡白か!九郎:驚かすんじゃねぇ!心臓が飛び出るかと思ったぞ!」
妖狐:「ふふっ…それは申し訳ない。旦那様に付けた狐火から妖怪の気配がしたもので…しかし、ソレは重たいでしょうに」
九郎:「何だい、この体の重みはお前さんの仕業か?」
妖狐:「いいえ。ですが、そのまま家までお帰りくださいまし、ふふふ…」
九郎:「一体なんだってんだ…くそぉ…」
妖狐:「わたくしは先に家でお待ち申し上げております故、お気をつけてお帰りになってくださいまし…」
九郎:「くそっ…これだから妖怪は…」
九郎:「はあっ、はあっ、…戻ったぞ!!!」
妖狐:「おかえりなさいまし、旦那様」
九郎:「うおっ…何だこりゃあ!」
妖狐:「金と小判にございますね。ふふふっ…ほんに旦那様は妖怪に好かれなさる」
九郎:「一体どういう事だ?」
妖狐:「旦那様に、おばりよんが負ぶさっておられたのですよ」
九郎:「おばりよん?」
妖狐:「はい、おばりよんを背負ったまま、家まで無事に帰る事が出来れば、金や小判に変わる妖怪にございます」
九郎:「そんな妖怪が居るのか…」
妖狐:「わたくしが白狐であるが故かもしれませぬ」
九郎:「どういうことだ?」
妖狐:「人間に福を運ぶ、と言われて居るからです」
九郎:「そうなのか?」
妖狐:「まぁ、人間の噂話ですよ」
九郎:「でも今の話を聞いて納得したよ」
妖狐:「何をです?」
九郎:「お前と話していると心が落ち着く。穏やかな気持ちになれる。親に捨てられ、他の人間からも避けられ、俺は心が荒みきっていた。それがだ。今の俺は、こんな俺でもいいと思える」
妖狐:「旦那様…」
九郎:「ガキの頃から妖怪が視え、力の弱い妖怪などは蹴り飛ばせば消えた。力をつけていく俺に、妖怪共は興味を持ち、ちょっかいを出すようになった。
九郎:普通の人間には視えない妖怪を相手に言葉を吐き、時に喧嘩などやり合う様を見て、俺を避ける人間は増えた。寺にいる人間にも妖怪が視える者はいなかった。
九郎:俺は人間にも妖怪にも嫌気が差してた」
妖狐:「妖怪に散々な思いをさせられてきたと申したのは、この事ですね」
九郎:「ああ、己らが視える物珍しさと、俺の魂を喰おうとする妖怪に今まで幾度も襲われた」
妖狐:「ここらにはとても多くの妖怪が集まって居りまする、人間の住む村には珍しい程に」
九郎:「この村には鉱山がある。ほとんどの者が金を掘り生計を立てている。妖怪が多いのは崩落事故で死んだ者の魂を喰らうためだろう」
妖狐:「…それでこんなにも妖怪が集まって居るのですね。
妖狐:この村とは違い死者の少ない地域では、亡者が妖怪を使って生者を呪い殺す事もあると聞きます」
九郎:「そうなのか?」
妖狐:「あの世と呼ばれる場所には人数の限度が定められて居り、転生したくても次の亡者が来ない事には転生出来ませぬ故、自分の身代わりにと生者を呪い殺すのであります」
九郎:「なんとも手前勝手な話だ」
妖狐:「あの世というものがどういうものなのか分かりかねますが故の噂話ですが、それが世の理なのかも知れませぬ」
九郎:「そうだな、お前と話をして居ると、余計そう思うよ」
妖狐:「と申しますと…?」
九郎:「なんだかんだ言って、俺も一人が寂しかったみてぇだ」
妖狐:「これからは共に居ります故、ご安心くださいまし」
九郎:「ああ…。ところで胡白よ」
妖狐:「はい」
九郎:「お前さん、夜半に出てくるのではなかったのか?」
妖狐:「旦那様は妖怪を嫌っておりましたが故、そう申しました。いつ何時でも姿を現す事は可能でございますが、旦那様がご迷惑だとお思いになるのであれば、人通りの多い日中には姿を消しましょう」
九郎:「…いや、このままでいい」
妖狐:「え…」
九郎:「このまま側に居てくれ」
妖狐:「…はい」
九郎:「ああ、今日は本当に疲れた!飯の支度も面倒だ…」
妖狐:「それならわたくしがお作り致しましょうか?」
九郎:「そんな事も出来るのか?化かした葉っぱなどを食わす気ではなかろうな?」
妖狐:「ふふふっ、そのような事は致しませぬ、これでも米くらいは炊けまする」
九郎:「ほう」
妖狐:「支度を致します故、しばらく横になってお休みくださいまし」
九郎:「では甘えさせてもらうとしよう」
妖狐:「はい」
妖狐:「…旦那様、旦那様」
九郎:「…んぁ、あぁ、すまねぇ、寝てたみてぇだ…」
妖狐:「このようなところで寝ては体に悪うございます」
九郎:「ああ、板間で寝ちまったせいで体のあちこちが痛え……んっ、なんだ、いい匂いがするぞ!」
妖狐:「食事の用意が出来ておりまする」
九郎:「おお!こりゃあ豪勢だ!一体この魚はどうした?」
妖狐:「我らは狐です。魚を獲る事くらい朝飯前にございます」
九郎:「山菜もこんなに…」
妖狐:「喜んで頂けましたか?」
九郎:「もちろんだ、ありがとうよ胡白」
妖狐:「お口に合うと良いのですが」
九郎:「うむ、どれも美味だ!」
妖狐:「ふふふっ、無邪気なお子のようでございまするなぁ」
九郎:「それほどまでに幸せと感じておるのだ」
妖狐:「それは何よりでございます」
九郎:「俺も胡白に、幸せになってもらいてぇと思っている。
九郎:いや、俺がお前を幸せにする……だから……っておい、なんだ!どうした!!」
妖狐:「っ、何故でしょう…勝手に涙が…」
九郎:「…そうか…今まで魂の生まれ変わりの者を探し続けてきた事、さぞ不安だったろう。その辛さ以上に、俺がお前を幸せにしてやりてぇと思っている」
妖狐:「旦那様…ありがとうございます…」
九郎:「俺はお前の旦那だからな、存分に寄り掛かれ。なに、お前一人、寄り掛かったくらいじゃあ潰れやしねぇ。だから、遠慮はするな。もっと俺を頼ってくれ」
妖狐:「はい………」
九郎:「では今日も寺へ行ってくるよ」
妖狐:「この間の金や小判がありましょう。あれほどの量であれば、仕事などせずとも暮らせるのではございませぬか」
九郎:「あれはいざという時の物だ、お前が預かっていてくれ。それに、今は人と関わるのも苦ではない」
妖狐:「そうですか、では銭に換え、隠しておきまする」
九郎:「頼む。では、行ってくる」
妖狐:「お気をつけて行ってらっしゃいまし…………ふぅ、ほんに、いい旦那様でありまするなぁ…」
九郎:「胡白!!!」
妖狐:「旦那様!?血相を変えて一体どうなさいました、外が騒がしいようですが…」
九郎:「近くで火事が起きた!火消しが辺りの建物を壊して回っている!いずれここも潰される!家から出るぞ!」
妖狐:「建物を壊す?何故です?」
九郎:「火事になった周りの家を潰せば、それ以上火の手が広がることはねぇからな!」
妖狐:「なるほど…」
九郎:「悠長なことを言ってる場合じゃねぇ!一刻も早く、ここから逃げるぞ!」
妖狐:「ええ!!?こんなに人が集まって居る中をですか?わたくしなら姿を消して…」
九郎:「いいから!俺と一緒に来いっ!」
妖狐:「はっ、はい!」
九郎:「はあっ、はあっ、はあっ、ここまで来れば大丈夫か?!」
妖狐:「ここからなら様子がよく見えまする、妖怪の仕業にございます」
九郎:「妖怪だぁ?」
妖狐:「ええ、火事になった家に火玉という妖怪が見えまする」
九郎:「ひざま?」
妖狐:「はい、鶏に似た姿の妖怪で、家に憑き、火事を起こします」
九郎:「そうか…しかし参ったな…住むところがなくなっちまった」
妖狐:「旦那様、いつかの銭がございます。あれ程の量であれば何とかなりましょう」
九郎:「おお!そうだったな!それなら、今までのボロ屋よりいい家に住めるってもんだ!」
妖狐:「ふふっ、それはようございまする」
九郎:「そうだなぁ…少し人里から離れて山の近くに家を持とう!自然の多い所であれば、お前も安心して暮らせるであろう?」
妖狐:「しかし、それでは旦那様が不便なのではありませぬか?」
九郎:「なに、俺が外に出るのは仕事をしに寺に行く時か、散歩くらいのものだ。お前は町中より山の近くの方が落ち着くだろう?」
妖狐:「そんなに気を遣ってくださらなくても良いのですよ」
九郎:「そのくらい気遣わせてくれ。それにお前と二人、静かに過ごせるってもんだ。畑でも作って作物を育てるのもいいな…」
妖狐:「ふふふっ、それは楽しみでございまする」
九郎:「しかし家が出来るまで、どうするかなぁ…」
妖狐:「寺に事情を話せば、置いていただけるのではないですか?」
九郎:「俺はそれで済むけどよぉ…」
妖狐:「なに、わたくしなら心配いりませぬ。これまでの旅で慣れておりまする」
九郎:「そりゃあ、そうなんだろうけど…」
妖狐:「他に、何か気がかりなことでも?」
九郎:「…」
妖狐:「旦那様…もしや、」
九郎:「…なんだよ」
妖狐:「…ふふっ、ふふふっ!」
九郎:「なんだ、にやにやと笑いやがって…!」
妖狐:「お側に、居ますよ」
九郎:「っ!俺は何も言ってないぞ!!」
妖狐:「ふふふ、そうですね。早く家が建つといいですね」
九郎:「…そうだな」
九郎:「…ただ見てるだけってのもなぁ…」
妖狐:「…」
九郎:「…ん?狐?こんな所にめずらしいな…」
妖狐:「…」
九郎:「…もしかして………胡白、か?」
妖狐:「…」
九郎:「…まさか…な…」
妖狐:(…よくお分かりになりましたね)
九郎:「おわっ!?ほ、本当に胡白なのか!?」
妖狐:(…ふふふ。言ったではありませぬか。側にいる、と)
九郎:「言ったけどよぉ…!…へへっ」
妖狐:(旦那様こそ、こんな所で何をしているのです?)
九郎:「ん?あぁ、これだ」
妖狐:(大工道具?)
九郎:「寺に良く来る宮大工がいてな。古くなった道具を譲ってもらったのさ」
妖狐:(はぁ、それで?)
九郎:「それで、ってお前、作る人間が増えりゃあ早く家が建つだろう」
妖狐:(…はぁ…旦那様、大工のご経験は?)
九郎:「お前が何を言いたいのか大体の想像はつくがな、古寺のあちこちを修理してきたのは俺だ。そりゃあ本職には劣るだろうが筋はいい方だと思っている」
妖狐:(そうですか、では楽しみに待っておりまする)
九郎:「ああ。あ、危ないから、離れて見てろよ」
妖狐:(はい、分かりました)
九郎:「新しい家はどうだ?」
妖狐:「ええ、とても立派にございます」
九郎:「そうだろう、そうだろう!」
妖狐:「旦那様も、頑張った甲斐がありまするなぁ」
九郎:「庭も広く作った、ここで作物を育ててやりゃあ楽しみも増えるだろう」
妖狐:「そうでございまするね。旦那様は作物をお作りになられた事があるのですか?」
九郎:「いいや、もっぱら盗むことぐらいだな…だが、種を撒き、雑草を取れば良いのであろう?」
妖狐:「ふふっ、旦那様らしい答えですこと」
九郎:「呆れてる居るのか?」
妖狐:「いいえ。ですが可笑しくて」
九郎:「まぁ、なんとかなるだろう!任せておけ!」
妖狐:「ふふっ、わたくしもお手伝いさせてくださいな」
九郎:「うむ、頼む」
妖狐:「旦那様、旦那様…起きて居られますか…?」
九郎:「ん…あぁ、どうした、こんな夜半に…」
妖狐:「…お伝えしたいことがございまする」
九郎:「なんだい、畏って」
妖狐:「子を、宿しました」
九郎:「なに?!本当か!」
妖狐:「はい、ですがまだ安心は出来ませぬ。子が流れる可能性も…無事に産まれて来るまでは気を抜けませぬ」
九郎:「そうだったな…無事に子が産まれてくるよう、俺はこれから毎日、仏に拝もう!」
妖狐:「…ふっ、ふふっ」
九郎:「なんだ」
妖狐:「ふふっ、すみませぬ。我らは妖怪であり、神の遣い。それを仏に拝むとは…なんだか可笑しくなってしまいました」
九郎:「俺は真剣だ」
妖狐:「分かっておりまする…旦那様なりにわたくしのため、子のために何かしてくださろうというお気持ちはとても嬉しく思っておりまする…
妖狐:旦那様と夫婦となれたこと、言葉では伝えきれない程、感謝しております。妖狐:それは子を成す、成さないとは関係なくであります」
九郎:「いいや、子を成す!絶対にだ!」
妖狐:「(涙声で)…ほんに旦那様は…こちらの調子が狂いまする」
九郎:「泣くな、胡白。お前を必ず幸せにする。今の俺にはその自信がある。だからお前も俺を信じろ」
妖狐:「…はい」
九郎:「子が生まれるのは十月十日後か?」
妖狐:「いいえ、我ら妖狐は半年で子を産みまする。
妖狐:子を宿して三月のうちは流れる可能性があります」
九郎:「三月を過ぎれば、子は無事に産まれるのか?」
妖狐:「何もなければ」
九郎:「そうか…何か俺に出来る事はねぇか?」
妖狐:「今まで通りで構いませぬ」
九郎:「何もできねぇって事か…あああ!くそっ、無事に産まれてくれよお!!」
妖狐:「ふふふっ、旦那様、随分とお変わりになりましたなぁ」
九郎:「そうかい?俺は何にも変わっとらんと思うが」
妖狐:「お変わりになりましたよ」
九郎:「そうか………お前の顔を見ると、それはいい変化、なのだな?」
妖狐:「ええ、とても良い変化にございます。旦那様の本来の優しさが滲み出ておいでです」
九郎:「〜っ!なんでぇ、そりゃあ!
九郎:…そうだ!これからは毎日油揚げを買って帰るぞ!!」
妖狐:「ふふふふふっ、何を仰るのかと思えば…」
九郎:「油揚げはお前ら狐の好物だろう?!滋養にはならねぇか?!」
妖狐:「旦那様のお気持ちはとても嬉しく思いますが、これは呪い故…滋養も何も関係ないものなのです…」
九郎:「そうか…だが、俺がお前にそうしてやりたいのだ!!」
妖狐:「…そうですか、では旦那様のそのお気持ち、ありがたく頂戴致しまする」
九郎:「よし!任せろ!」
九郎:「それから俺はがむしゃらに働いた。胡白のために、産まれてくる子供のために、なにがあっても俺が守る。家族を守ることが、俺の生き甲斐になった。
九郎:嫁を貰い、家庭を持つことが出来るだなんて、誰が想像できただろうか。
九郎:世を恨みながらも今まで生き延びたのは、これから幸せになるためなのだと思った。」
九郎:「今日の飯も美味いなぁ、胡白は本当にいい嫁さんだ」
妖狐:「ありがとうございます」
九郎:「…胡白と出会うまで、俺は食事もまともに摂っていなかったと今、改めて思うよ」
妖狐:「一人での生活、自分のためだけの食事…なにかと疎かになりがちです」
九郎:「あぁ、だから胡白には感謝しかねぇ。これからもよろしく頼む」
妖狐:「…」
九郎:「………どうした?」
妖狐:「…旦那様、今宵、子が産まれます。旦那様とわたくしの子が…この子もまた、旦那様の魂の生まれ変わりの者を探す運命を背負う子です」
九郎:「なに?!そうか…だが今は、運命などは置いて、無事に産まれてくれる事に感謝しようじゃねぇか!」
妖狐:「旦那様、これでお別れでございます…」
九郎:「は?何を言って…」
妖狐:「子を産むか、寿命か…そのどちらかで我らの命は絶えます。子を産み、命絶えること、わたくしはとても嬉しく思いまする…」
九郎:「そんな…胡白!共に添い遂げると言ったではないか!!」
妖狐:「子を成せなかったならば、共に過ごす未来がありました…旦那様と共に生きることが叶わぬ事は、とても寂しゅうございますが………一族の血を絶やさずに済む事、これほど喜ばしい事はありませぬ…」
九郎:「そんな…」
妖狐:「ああ…やっと、やっと子を成せる…旦那様と、わたくしの子…」
九郎:「だから言ったろ?必ず子を成すと…」
妖狐:「旦那様…ほんに、ほんに…今までありがとうございました…わたくしはっ…幸せでございました…!」
九郎:「俺もだ、胡白!!お前と出会えて俺は変われた!!
九郎:親に捨てられ、人にも妖怪にも嫌気が差し…生きる希望すらなかった俺を、こんなにも幸せにしてくれた!幸せというものを教えてくれた!それはお前が居てくれたからだ!!
九郎:感謝してもしきれねぇ!礼を言うのはこっちの方だ…!!」
妖狐:「…産まれた子は、わたくしの故郷で次期当主として育てられます…わたくしの生命は、お腹の子に託されるのです。逞しく育つため…当主として、血統を紡ぐための礎とするために…」
九郎:「胡白…それなら俺は、お前達妖怪が棲みやすいよう、人の都合で荒らされる事のないような、安心して棲める場所を作る!!だから!!
九郎:…安心して眠ってくれ、胡白…!」
妖狐:「…最後の最後まで、ほんに貴方様という方は…ふ、ふふっ…」
九郎:「俺は本気だ!!」
妖狐:「旦那様が本気だと言うことは、わたくしが一番分かって居りますとも…
妖狐:
妖狐:…じきに迎えの者が来るでしょう…
妖狐:わたくしは故郷へと戻り、子を産みます…
妖狐:旦那様…これからも、達者で生きてくださいまし……」
九郎:「それから数日後、妖狐の遣いの者が再び訪ねてきた。
九郎:子が無事に産まれた事…
九郎:胡白が、亡くなった事…
九郎:それと、胡白に言われたようで、残りの金と小判を持って。
九郎:
九郎:俺は庭に小さな社を建て、近くの山を買えるだけ買った。自然のまま、妖怪も動物も共に暮らせるように。
九郎:
九郎:毎日社に手を合わせ拝んでいると、ちりん、と鈴のなる音がし、音の出元に目をやると一匹の子狐が居た。子狐は目が合うと、さっと森へ姿を消し、それ以降見かけることはなかったが、まれに、鈴の鳴る音が聞こえる。
九郎:その音を聞いては目を瞑り、胡白と過ごした日々を、今でも思い出している」