その他

バルトロマイ

author作者:にょすけ
警告・特記事項:叫び

すべての創作者と、すべての表現者へ

配役
002
予想時間20
文字数6625 文字

登場人物

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メイヴ
クロード
本編
クロード『その剣(つるぎ)の切っ先に、明明(めいめい)となる未来がある。』
クロード『その礎(いしずえ)となる覚悟すらも、私には容易い。』
クロード『我が名はモーフィウス、穿(うが)て、そして、切り開け。私はここに在る。』
メイヴだめだ。
クロード……もう一度、お願いします。
メイヴ(何もいわない)
クロード『その剣(つるぎ)の切っ先に、明明(めいめい)となる未来がある。』
クロード『その礎となる覚悟すらも、私には容易い。』
クロード『我が名はモーフィウス、穿て、そして、切り開け。私はここに在る。』
メイヴ(途中から割り込むように)もういい、クロード。
クロードまだ出来ます。
メイヴ「できる」「できない」じゃない。
クロード出来ます。
メイヴクロード。
クロードやらせてください。
メイヴ……50ページ、モーフィウスとマリアーナの今生の別れのシーン。
クロード……はい。
メイヴモーフィウスが城内に入ってくるシーンの頭から。
クロードはい。やります。
メイヴ……。
クロード『空も、海も、風さえも君の声を運ばない。』
クロード『この城からですら、愛しき君の香りはしない。』
クロード『ああ。この無情なる空虚を、どうしてやればいいのだ。』
メイヴクロード。
クロード『ああ、マリアーナ。』
クロード『君はどこに居るんだ、その甘く儚げな声を聞かせておくれ。』
メイヴ……クロード。
クロード……どうして、止めるんですか。
メイヴ今日はもう止(や)めておこう。
クロード嫌です。
メイヴ……お前も相当な厄介者だな。
クロードなんて言われようと構いません、止(や)めたくないです。
メイヴ頑固者。
クロード……すいません。
メイヴ一旦休憩にしよう、流石に疲れた。
クロード(小声で)……休憩してる場合なんかじゃないのに。
メイヴ何か言ったか?
クロード……いえ、何も。
メイヴ「休憩」も大事な練習の一部だぞ、クロード。
クロード聞こえてたんじゃないですか。
メイヴ「耳」が良くないと、演技なんてしてられないだろう?
クロード(小声で)意地の悪い。
メイヴ聞こえてるぞー。
クロードわかってます、わざとです。
メイヴ……その表情、やめろ、クロード。
クロード……何のことですか。
メイヴその「いかにも絶望の淵(ふち)に立っています」って表情だ。
クロードそんな表情、してませんよ。
メイヴそれが「無自覚」だっていうなら、クロード。
メイヴこれ以上続ける事は本当に無意味な事になるぞ。
クロード……。
メイヴ「国立劇団のエース」が聞いて呆れるな。
クロードなんですか、それ。
メイヴ流石にその「自覚」はあるだろう?
メイヴ悲劇である「マクベス」を笑顔で演じ切り、
メイヴその後も王室披露の「ロミオとジュリエット」も主役に抜擢(ばってき)。
メイヴ国立劇団が生んだ、稀代(きだい)のスターだ。
クロードやめてください。
メイヴ今回の脚本もほとんどお前の為のあてがきと言っても過言ではない。
メイヴ今まで古典演劇しかしてこなかったこの国立劇団が、だ。
メイヴ国立劇団主導の脚本をわざわざ書き下ろした。
クロード……。
メイヴこの脚本、「モーフィウス卿」は。
メイヴ「お前の為の、本だ。」
クロードわかってますよ!!!!そんなことくらい!!!!!
メイヴ……。
クロードなんですか!?
クロードなんなんですか!?
クロードなんでその話を今するんですか。
クロードあなたの言う通り、今まさに「絶望の淵」なんですよ。
クロード稀代のスターだ?国立劇団のエースだ?
クロードこんな、こんな世界の隅で膝を抱えてるような奴が?
クロード笑いもんですよ、そんなの!
クロード思う通りの、求められるような演技なんて出来やしない。
クロードこれが精いっぱいなんだ、すべてを出してるんだ。
クロードわかるでしょう!?これが精いっぱいなんですよ!
メイヴ精いっぱい、ねえ。
クロード……降板(こうばん)、ですか。
メイヴ……。(軽くため息が出る)
クロード……そう、ですよね、こんな体たらくじゃ。
クロードわかってます、だめですよ、こんな演技じゃ。
クロードこの「モーフィウス卿」の最大のポイントは。
クロードこんな演技じゃ表現しきれていない。
クロード観客はこんな、「前代未聞」を見に来てるわけじゃない。
クロードこれなら、どこぞのジュニアハイスクールのお遊戯会を見ていたほうがマシだ。
クロードいや、お遊戯会に失礼かもしれない。
クロードだってこっちはそれで金をとろうっていうんだから。
メイヴクロード。
クロード……なんですか。
メイヴ思えば、お前と腹を割って話したことなんてなかったよな。
クロード……?
クロードいきなりなんです?
クロードメイヴさんとは嫌と言うほど、演技論や表現方法について語り合ってきましたよ。
メイヴそれは、「役者」の皮を被った二人での会話だ。
クロード……「役者」の、皮。
メイヴクロード・クリスウェルとメイヴ・ハーティ。
メイヴなんの皮も被らずに話した事は、無かっただろ。
クロード……年配者はいつだって、心での対話とか言い出しますよね。
メイヴおいおい、お前だっていつかはその「年配者」になるんだぞ。
メイヴそれに、まだ「年配者」なんて年齢じゃあない。
クロード……どうだか。
メイヴ……何に焦ってるんだ?
クロード……メイヴさんには、わからないですよ。
メイヴ「わからない」?
クロードええ。絶対にわからない。そういう苦しみってやつです。
メイヴ凝り固まってるなあ。
クロード……凝り固まってる……?
メイヴ凝り固まって、先端がとがって、まるで自爆寸前のユニコーンだ。
クロード……なんですか、それ。
メイヴ「演技」とは、なんだ、クロード。
クロード……は?
メイヴお前は、「マクベス王」の気持ちをすべて理解できるのか?
クロード何を言って……。
メイヴ「できるはずがない。」
クロード……。
メイヴ物語の主役とすべてを同じになんてできるはずがない。
メイヴそりゃぁそうだ、自分と「役」は違う。
メイヴでも、その「違い」を「理解」しようと「し続ける」事が「演技」なんじゃあないのか?
クロード……まるで、口説いてるみたいですね。
メイヴ近からず、遠からず、だな。
クロード……メイヴさんは、「バルトロマイ」をご存じですか。
メイヴバルトロマイ?
クロードキリストに認められた第十二使徒「ナタナエル」の別称ですよ。
クロードなので、正確には「聖バルトロマイ」と呼ぶのが正しい。
メイヴそんな、聖なる第十二使徒様がどうしたっていうんだ?
クロード彼は、使徒の中で唯一「キリスト」に絶賛された使徒だったんですよ。
クロードどの使徒の事も褒めることはしなかったあの「キリスト」が唯一、
クロード「バルトロマイ」の事だけは、大絶賛したんです。
メイヴなるほど。で、その「聖人」がどうしたって?
クロード……。
メイヴクロード?
クロード聖バルトロマイは、宣教(せんきょう)中に「全身の皮を剥がれて」殉教(じゅんきょう)したんです。
メイヴそれは、悲惨だな。
クロードメイヴさん。
メイヴん?
クロード僕は、何個も何個も皮を被ってきました。
クロード役者の皮、だけじゃない。
クロード役者として尊敬する人達、達人、技術者。
クロード様々な演技を、感情を、役を、盗んでは着て、自身の皮を厚くしていったんです。
メイヴ……。
クロードその中には、メイヴさん、貴方の事だって。
メイヴ……しってるよ。
クロードこの劇団に、入りたいって思ったのも。
クロードメイヴさん、貴方が居たからだ。
メイヴよく覚えてる。
クロードあなたの呼吸を、あなたの汗を、あなたの視線を。
クロード何度も、何度も何度も何度も、目に焼き付けて、耳に染みこませ
クロード「追いかけた」
クロード「真似をした」
クロード「同じになりたいと願った」
クロード「超えてやりたい」と思った!
クロードそうやって、何度も何度も何度も!
クロード「あなたの皮を被った」
クロード神がかった他の役者の皮をも被り続けていった!
メイヴ……クロード。
クロード認められたい。
クロードてっぺんに立ちたい。
クロードあの輝かしい舞台の上で、あの眩いスポットライトを浴び続けていたい。
クロード何度も、皮を被って、技術を盗んで、真似て、それを吐き出して!!!
クロードいつの間にか、それは「化けの皮」になっていった!!!
メイヴばけの……かわ。
クロード稀代の画家、ミケランジェロが描いた「最後の審判」では
クロードバルトロマイは自身の剥かれた皮を手に持った姿で登場するんです。
クロード滑稽(こっけい)でしょ?
クロード剥がした化けの皮が、いつまでもいつまでもそこにある。
クロード一体何枚剥がしたら、本当の自分なのか。
クロードとうの昔にわからなくなっていた。
クロード勝ち取ったこの「皮」たちを剥いていって
クロード何度も何度も模倣(もほう)した「皮」を破いていって
クロード「骨の髄」まで、誰かの模倣(もほう)だったら……。
クロードどうすればいいって言うんですか。
メイヴ……。
クロード本当の自分って、なんなんですか。
クロード「本当の自分の演技」って、なんなんですか……。
メイヴ……言いたい事は、それで終わりか?
クロード……メイヴさんには、わからないですよ、絶対。
メイヴ(少しの沈黙の後、笑顔が見える程、明るく演技をするメイヴ)
メイヴ『その剣(つるぎ)の切っ先に、明明(めいめい)となる未来がある。』
メイヴ『その礎となる覚悟すらも、私には容易い。』
メイヴ『我が名はモーフィウス、穿て、そして、切り開け。私はここに在る。』
クロードえ……?
メイヴ『ギュスターブ、剣を取れ!』
クロードメ、メイヴ……さん……?
メイヴ『剣を取れ!!!!ギュスターブ!!!!』
クロードあ……。
クロードな、『何を抜かすか、この軟弱者めが!』
クロード『貴様のか細い剣(つるぎ)なんぞで、この国を救おうとでもいうのか。』
クロード『穢れたその身を、その命を、呪いつづけろ!』
メイヴ『例え、我が身朽ちようとも』
メイヴ『例え、明日の朝日が私に微笑まずとも』
メイヴ『死ぬ事など恐れない、私は、未来のすべての為に切り開くものなり!』
クロード……やっぱり、メイヴさんの演技は、すごいです。
メイヴすごい訳があるか。
クロードえ……?
メイヴクロード、私はな。
メイヴお前の事が大嫌いだったよ。
クロード……。
メイヴ今私がした演技はな、クロード。
メイヴ5年前、お前が私の「マクベス」を奪った時と何一つ変わらない。
メイヴ「お前の模倣だよ、クロード。」
クロード……マクベス。
メイヴ入団したばかりのお前が、あの悲劇の代表ともいえる「マクベス」を終始笑顔で演じた。
メイヴマクベスは悲劇だ、喜劇なんかではない。
メイヴそれを、お前は飛び切りの笑顔で終始演じ切ったんだ。
クロード……覚えてます。
メイヴ大嫌いだったよ、お前が。
クロード……。
メイヴ私に憧れてくれるな、私を追うなと何度呪ったことか。
メイヴお前が私を追うたびに、お前が私を煌びやかな目で見つめる度に、
メイヴ私は、私を呪ったよ。
メイヴ何度も、何度も何度も、演技なんてやめてしまおうと思った。
メイヴだが、結果的に。
メイヴお前の演じた「マクベス」は最高だった。
クロードメイヴさん……。
メイヴ観客の鳴りやまない拍手を覚えてないのか?
メイヴ舞い散る紙吹雪の中で、流れる汗の輝きに誇りを覚えなかったのか。
メイヴ私は、感動した、お前の演技で!感動したんだ!
メイヴそこまで抱えてきた恨みも、呪いも、苦しさも全て忘れて
メイヴお前の、演じ切ったマクベスにただ只管に心が震えた!
クロードそんな、そんなこと……
メイヴ甘ったれるな!クロード!
クロードえっ
メイヴ「責任を果たせ」
クロードせきにん……?
メイヴ皮を捲り(めくり)続けて、破り捨てて、「何も残っていませんでした」
メイヴ「私は玉ねぎのように皮しかない人間です」といじけ続けるなら結構だ。
メイヴだが!お前は!もう幾重(いくえ)にも幾重にも!
メイヴ「その化けの皮で、他人を感動させてきた!」
メイヴ皮しか残らずとも、玉ねぎは玉ねぎだ!
メイヴ「中身などない、玉ねぎでも、誰かを感動させることができる!」
メイヴ模倣だ?偽物でも、本物でも、空洞でも、空虚でも!
メイヴ「お前が作り出してきた、その舞台は!本当に誰かの模倣だったのか!?」
クロードそれは……
クロードでも!「クロード・クリスウェル」は!!
クロード「模倣」をしつづけた偽物なんだ!!!
クロード偽物が作ったものに価値なんてあるのか!?
クロードただ、完成された演技を、役者を、コピーしただけの写し鏡だ!
メイヴ「他人をなめるな!」
クロードなっ……。
メイヴ「他人」をなめるな、クロード。
クロードなめるな……?
メイヴ「お前は、他人の演技の何を模倣したっていうんだ?」
クロード何を……って……。
メイヴ「他人」の何を知っている。
メイヴ「私」の何を知っている?
メイヴ入団したばかりの現役高校生に主役の座を奪われ
メイヴ国に帰ろうとした卑怯者の私を知っていたか。
メイヴ親友に弱音を吐き、背中を押され、恥ずかしげもなく涙した私を知ってるのか。
メイヴ「知りえるはずがない」
メイヴすべてを模倣できているなんて思うな、それは……
メイヴ「お前が、ただ、他人から学び!」
メイヴ「お前自身の身体を糧にして作り上げた!」
メイヴ「自身の皮をかぶっているにすぎない!!!!」
クロード……。
メイヴお前は!お前自身が作り出した「お前」に対して、責任をきちんと取れ!
メイヴいくらでも悩み続けろ、何回でも苦しめばいい、もがいて、もがきつづけて
メイヴ最後にその舞台に「立ち続けろ」。
メイヴお前が、お前たちが、私たちが、作り上げた「物語」に!「舞台」に!
メイヴ「偽物なんて一つもなかっただろうが!」
クロード……そんな、そんなの、わかってますよ……。
クロードでも……
メイヴ観客はお前の葛藤を見に来たわけじゃない。
メイヴお前が何に悩んで、何を苦しく思い、どう泥に塗れてきたのかなんて、一切興味がない。
メイヴ観客はいつだって、ただただ、「舞台の上に立つ、お前の輝きを見に来ただけだ。」
クロード……なんでそうやって、奮い立たせようとするんですか、メイヴさん。
メイヴ……当たり前だろ。
メイヴ一人の若き天才に、主役を奪われた一人の役者はな。
メイヴ何度も這いつくばって、泥に塗れて。
メイヴ来月、初のオリジナル脚本を引っ提げて晴れて国立劇団の「新座長」になるんだよ。
クロードえ……?
メイヴお前の演技が「一人の人間を狂わせて、そして、奮い立たせた」んだ。
メイヴお前は「人の人生」を動かしたんだ。
メイヴそれ以上の「本物」が存在するか?
クロードメイヴ、さん。
メイヴこんだけ焚きつけて、まだ「皮がどうだ」なんていうのか?クロード。
クロード……。
メイヴもう一度、やってみろ、クロード。
クロード……はい。
クロード『その剣(つるぎ)の切っ先に、明明(めいめい)となる未来がある。』
クロード『その礎となる覚悟すらも、私には容易い。』
クロード『我が名はモーフィウス、穿て、そして、切り開け。』
クロード『私はここに在る。』